子ども時代から抱える母親への複雑な感情、2度の離婚と手放した子どもふたりへの罪悪感。それらが増幅させる家族への憧れ。息子と漂流するようにしてたどり着いた夜間保育園で、家族への飢えるような思いを満たしつつあるが、ここにつながっていられる時間は最長で6年。彼女の残り時間はあと2年しかない。
「この子が卒園するときにはわたしにも卒園証書をくれるって、先生たちが言うんですよ。わたし、それが楽しみで」
ところが、彼女の生活はある日一変する。
本人によれば「運命的な出会い」により、新しい恋人との間に赤ちゃんを妊娠したのだ。恋人は経済的に安定した仕事についてはいなかったが、真弓は彼と出会い、精神的な安定を得た。
知り合って1ヶ月で入籍すると、真弓は完全に中洲を卒業した。
現在は夫の実家の近くに引っ越し、赤ん坊を彼の両親に預け、夫婦で家具量販店にパート勤めをしている。やっと、つつましくも穏やかな暮らしを手に入れたのだ。
この恋愛が始まった時期、真弓は何度か午前2時の閉園時間に遅れて迎えに行ったことがあった。さすがにベテラン保育士からは厳しく叱られ、翌朝は事務室の職員にこってりしぼられたが、それでも、遅くこようと早くこようと、夜間保育園がいつでも真弓を受け止めることに変わりはなかった。
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