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“要注意保護者”のシングルマザーを変えた、夜間保育園理事長のひと言

“要注意保護者”のシングルマザーを変えた、夜間保育園理事長のひと言

文:三宅 玲子


ジャンル : #ノンフィクション

『真夜中の陽だまり』(三宅玲子 著)

 職員や園長は「あのおかあさん、面接はいつも突破できるんですよ」「あとは根気だけ。石の上にも3ヶ月って、言うんですけどね」と、心配していた。

 職員の思いを知ってか知らずか、

「先生たちをがっかりさせたくないけん、わたし、今の仕事、がんばるつもりなんですよ」

 そう決意表明をしながらも、真弓は、保険会社の営業の仕事は3ヶ月の研修が終わると、ノルマが厳しくなるのだと不安を口にした。

 結局、保険会社は3ヶ月で辞めて再び中洲に戻った。だが、真弓はこの保育園で決して励まされ、甘やかされる一方ではなかったように思えた。真弓の本来持つ明るさや人懐っこさ、素直さを、保育園の職員たちも認め、真弓との会話を楽しみ、彼女が人生を立て直そうと奮闘する姿を心から応援していた。そう思ったのは、職員からこんな話を聞いたときだ。

 保育園では新入園児の保護者のために、入園前に説明会を開いている。保育園のきまりや持ち物、病時の対応など、子どもを預けるに際して知っておいてほしいことを説明し、保育園について理解してもらうためのものだ。ところが、真弓はその日、やってこなかった。そこで、後日真弓のために説明の時間を設けた。職員がひとつひとつ説明をしていると、真弓が突然、

「きょう、わたしひとりのために時間をとってくれたんですか?」

 と尋ねた。そうだと答えると、真弓は心からすまなそうな顔をして、

「先生、わたしのために時間をとってくれて、ありがとうございます」

 と頭を下げた。

単行本
真夜中の陽だまり
ルポ・夜間保育園
三宅玲子

定価:1,650円(税込)発売日:2019年09月09日

プレゼント
  • 『皇后は闘うことにした』林真理子・著

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