職員や園長は「あのおかあさん、面接はいつも突破できるんですよ」「あとは根気だけ。石の上にも3ヶ月って、言うんですけどね」と、心配していた。
職員の思いを知ってか知らずか、
「先生たちをがっかりさせたくないけん、わたし、今の仕事、がんばるつもりなんですよ」
そう決意表明をしながらも、真弓は、保険会社の営業の仕事は3ヶ月の研修が終わると、ノルマが厳しくなるのだと不安を口にした。
結局、保険会社は3ヶ月で辞めて再び中洲に戻った。だが、真弓はこの保育園で決して励まされ、甘やかされる一方ではなかったように思えた。真弓の本来持つ明るさや人懐っこさ、素直さを、保育園の職員たちも認め、真弓との会話を楽しみ、彼女が人生を立て直そうと奮闘する姿を心から応援していた。そう思ったのは、職員からこんな話を聞いたときだ。
保育園では新入園児の保護者のために、入園前に説明会を開いている。保育園のきまりや持ち物、病時の対応など、子どもを預けるに際して知っておいてほしいことを説明し、保育園について理解してもらうためのものだ。ところが、真弓はその日、やってこなかった。そこで、後日真弓のために説明の時間を設けた。職員がひとつひとつ説明をしていると、真弓が突然、
「きょう、わたしひとりのために時間をとってくれたんですか?」
と尋ねた。そうだと答えると、真弓は心からすまなそうな顔をして、
「先生、わたしのために時間をとってくれて、ありがとうございます」
と頭を下げた。
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