- 2019.11.11
- インタビュー・対談
ビジネスとして、副業として、まじめに「殺し」を考える──石持浅海『殺し屋』シリーズ
「オール讀物」編集部
『殺し屋、やってます。』『殺し屋、続けてます。』
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
お仕事小説として「殺し屋」を描く
殺し屋といえどもひとつの仕事。本業の経営コンサルタントと同様、地道な努力や、真摯な職業倫理が求められることに変わりはない。
たとえば、富澤は、依頼人と自分との間に2人の連絡係(「伊勢殿」と塚原)を挟んでいる。依頼人→「伊勢殿」→塚原→富澤という流れで依頼がもたらされるのだが、富澤は直接依頼人に接する「伊勢殿」の情報を持たず、塚原(富澤の旧友でもある)も依頼人の素性を知らない。この、臨床試験における「二重盲検法」にも似たシステムによって、依頼人は富澤の正体を知りえず、富澤もまた依頼人が誰かを知るすべがない。裏切りの心配なく仕事に専念できる仕組みなのだ。
「シリーズ1作目で、富澤が、富澤自身を殺してくれと依頼を受ける回があるのですが、そんな非常時でも富澤は、依頼人の正体を『伊勢殿』から聞き出そうとはしません。殺し屋を続けていきたいから、富澤は職業人として自らに課したルールをかたくななまでに守るわけです。この姿勢は今後も絶対に崩さず、大事にしていこうと思っています」
富澤が“謎を解く”のも、職業倫理ゆえのことだ。
「殺しは仕事です。仕事をまっとうする上で、わずかでも不可解で、不具合につながる可能性のある種は前もって取り除いておきたい。だから富澤は、標的や依頼人にまつわる謎を解かざるをえない。解きたいから解いているわけではないのです。
逆にいうと、職務遂行の妨げにならない時、解く必要がない時は、徹底して解きません。こうした探偵役の独特の行動原理こそ、本書が一般的なミステリーではなく、お仕事小説であるゆえんではないでしょうか」
殺し屋に「商売敵」が登場!?
石持さんいわく、あくまで副業ゆえ、「殺しの依頼は季節に1件ほどのイメージ。年に数回、税務申告をしなくてよい臨時収入があるくらいの感覚」だという。
「1件の金額を650万円と決めたのは、東証一部上場企業の社員の平均年収がだいたいそれくらいだからです。殺人は特別の意味を持つ行為ですから、誰もが気軽に頼めるほど安価にするわけにはいきません。かといって、ゴルゴ13みたいに1件20万ドル(約2100万円)だと高すぎて、普通の人が頼めなくなってしまう。大企業の社員が1年間、懸命に働いて得られる金額くらいが、対価としてちょうどよいのではと考えたのです」
最新刊となる『殺し屋、続けてます。』では、1人につき550万円で依頼を受ける新たな殺し屋(本業はインターネット通販経営)、鴻池知栄も登場した。すわ、ライバルの登場か!?
「殺し屋」シリーズからますます目が離せない。
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