- 2019.11.22
- 書評
ラストに待ち受ける大いなる感動。だが、謎が解かれて終わりではない。
文:末國善己 (文芸評論家)
『壁の男』(貫井徳郎 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
第二章で明らかになるのは、なぜ伊苅が、妻の梨絵子、娘の笑里と暮らしていた東京を離れ高羅町に帰ってきたかである。これには笑里が直面した悲劇がかかわっているので、次々と事態が悪化する展開は読み進めるのがつらくなるほどである。
続く第三章では、マニアックな製品で有名なオーディオ機器メーカーに勤務していた伊苅と大手広告代理店で働く梨絵子が結婚するまでを描くことで、二人が築いた家庭の原点に迫っている。伊苅と梨絵子は、大学のワンダーフォーゲルサークルの同期だった。美人の梨絵子は新入生の頃から目立ち、同級生や先輩たちと浮き名を流していて、地味な伊苅とは特に接点がないまま卒業した。ある美術展で再会した二人は、大学時代は知らなかったが共に美術鑑賞が趣味だったことで親しくなる。あまり恋愛に慣れていない伊苅が、試行錯誤をしながら梨絵子との仲を深めていくところは、正統派の恋愛小説といえる。しかし終盤になると、ほほ笑ましい物語は一転、谷崎潤一郎や江戸川乱歩を彷彿させる異様な世界になるので、その急展開に衝撃を受けるはずだ。
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