- 2019.11.22
- 書評
ラストに待ち受ける大いなる感動。だが、謎が解かれて終わりではない。
文:末國善己 (文芸評論家)
『壁の男』(貫井徳郎 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
高羅町に入った「私」は、壁が問題の絵に彩られた家に住む女性に話を聞き、絵を描いたのが塾を経営していたが少子化で生徒が減り、いまは便利屋をしている伊苅で、近所の人は自ら望んで壁に絵を描いてもらっていたことが分かってくる。次に伊苅を訪ねた「私」は、塾の生徒が喜ぶと思い教室の壁に絵を描いたのが切っ掛けになったこと、近所の人たちが絵を頼んできたのは華やかになると考えたからではないかとの言葉を引き出すが、とても謎の全容が解明できたとはいえなかった。
ここから「私」の粘り強い調査が続くのかと思いきや、第一章の途中から三人称で語られる伊苅を主人公にした物語が始まる。東京の大学に入学し、四十近くになり一人で故郷の町に戻った伊苅は、美術教師で画家でもあった母のアトリエを改装して学習塾を始めた。だが一度故郷を捨てた伊苅は予想以上の逆風にさらされ、特に中学、高校時代は兄貴分だった川上とは関係改善ができず、絶縁状態に近くなっていた。母が亡くなった後、アトリエを改装した時の母の寂しげな表情に気付き、生徒が帰った後の空虚さに耐えられなくなった伊苅は、教室の壁を絵で埋めることを思い付く。子供が描いたような絵はなぜか生徒には評判で、伊苅は一緒に作業をするようになり、描く場所がなくなると自宅の壁をキャンバス代わりにし始める。物語が進むと、ある事件が契機となり川上の家の壁にも絵を描くようになり、川上との仲が回復したことで近所の人からも絵を依頼されるようになったことが判明する。
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