- 2019.11.25
- 書評
「もう少しだけ、頑張ってみよう」――そんな力を与えてくれる、お仕事小説
文:塩田春香 (会社員・HONZレビュアー)
『科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました』(朱野帰子 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
話は飛びますが、重大な犯罪を起こしてしまった人のなかには、尊厳を踏みにじられる経験を重ねてきたり、ワーキングプア状態で搾取されて世間への恨みを募らせてしまったりした人も多いのではないでしょうか。もちろん、どんなことがあっても罪を犯してよい理由には決してなりません。しかし、もしもその人たちにも自分を支えてくれる軸になる大切なものがあれば、それを大事にし続けられる環境があれば、一線を越えてしまうことはなかったかもしれない。そうしたニュースに接するたびに、やりきれない気持ちになります。
賢児が壊れなかったのは科学があったから――私にはそう思えてならないのです。音楽・演劇・美術などの芸術活動でも、スポーツでも、あるいは家庭でも友達でも、「大好き」がある人は強い。大好きゆえに苦しんだり、間違えたりすることもありますが、その大好きのために、まっすぐに生きる気力を失わずに済むこともあるのではないかと思うのです。
最近、子どもの頃からの夢だった企業に就職できて私生活も順風満帆で会社大好き、とっても幸せ! という同世代の人に出会って、こういう人もいるのかとびっくりしました。でも、もし自分もそういう人生を歩めていたら、賢児に共感することもなかったでしょうし、仕事に恵まれない人たちのことを「努力が足りない、自己責任だ」と決めつけてしまっていたかもしれない。結局、自分は賢児と同じように、不器用にあちこちゴチゴチと頭をぶつけながら、七転八倒して恥をさらして生きていくことしかできないのだと、最近ようやく諦めがつきました。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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