書評

「わかる、わかる」の美味しい衝撃

文: 堂場瞬一 (作家)

『かきバターを神田で』(平松洋子 著 下田昌克 画)

『かきバターを神田で』(平松洋子 著)

 食エッセイを読む時のポイントは「憧れ」か「共感」である。

「憧れ」は、書かれた食べ物に対して「これを食べてみたい!」、お店なら「行ってみたい!」と思わせることだ。書き手としては、いかにそこへ誘いこむかが、腕の見せ所になる。そしてもう一つ、「共感」とはすなわち──。

「あ、これ、食べたことがある」。

 

 例えばドイツのカリーヴルスト。僕はこれを、数年前にベルリンへ取材に行った時に食べた。どうしても食べたかったわけではなく、ドイツ名物だと聞いていたので、取り敢えず「済」マークをつけておくか、という軽い感覚だったのだが。

 この時は正直、首を捻った。カリーヴルスト=カレーソーセージ。どちらも日本人に馴染みの深い食べ物だから、二つを組み合わせた味もだいたい想像がつく。ところが出てきたものを見ると、ちょっとしなっとした白っぽいソーセージに大量のケチャップ、その上にカレー粉……カレー粉? まずそのビジュアルに衝撃を受けた。いやこれ、ソーセージにケチャップとカレー粉をかけただけでしょう? もうちょっと料理してくれよ、と文句を言いたくなった。

かきバターを神田で平松洋子 下田昌克

定価:本体650円+税発売日:2019年11月07日


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