また、親孝行や恩返しが美徳とされるこの国では、老いた親と絶縁することへの理解を得られにくい。「過去は水に流して」、「年寄りなんだから許してあげなさい」、「今、親孝行しないでいつするんだ」、そんな周囲の声に従うしかない場合もあるだろう。
人それぞれの事情はあるにせよ、ともかくも高齢の毒親と向き合うことになった人たち──、本書はその実態を描くものだ。とはいえ「向き合う」こと自体が大変で、そもそも親と話ができない、関わりを拒まれる、善意が悪意に解釈される、親への嫌悪感が拭えないなど、子どもの側は次々と壁に直面する。
さまざまな形で依存し、要求し、無理難題を吹っ掛けてくる親に疲弊する人もいる。一見弱者のような老いた親が、実際には巧妙に子どもを支配し、あらたな苦しみを与える場合もある。毒親の支配は暴力や過干渉によるものだけではなく、むしろ「非力」が演出されたりする。強権的に何かを強いるよりも、何もしないことで子どもを操ろうとするのだ。
反面、「毒親」や「毒母」と呼ばれる人たちにも、なんらかの理由や背景があるだろう。老いに伴う心身の変化、高齢者特有の心理などを考えることで、親との関係性に別の視点を得られるかもしれない。
つらい過去や心の傷を抱えた人にとって、その回復は重要な課題だ。各種の制度やサービスを利用できても、それだけで傷が癒えるわけではない。自分の苦悩をどう整理し、過去や現在、今後の人生をどのように捉えればいいのか、当事者の声や専門家の解説をもとに示していく。
親子関係と一口に言っても、その人の思いはその人にしかわからないだろう。百人いれば百通りの形があり、当然ながら誰しも納得できるような解決策はむずかしい。
それでも本書がなんらかの気づきをもたらし、より良い人生を獲得するための一助となること、あらたな希望や展望につながることを願っている。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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