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“貧困女子”ルポライター初の小説。ノンフィクションとは違う血の滾る執筆経験だった(後編)

“貧困女子”ルポライター初の小説。ノンフィクションとは違う血の滾る執筆経験だった(後編)

鈴木 大介

『里奈の物語』(鈴木大介 著)


ジャンル : #小説

自分を大事にする意味がわからない

『里奈の物語』(鈴木大介 著)

 そんなことを言う反面で、里奈は組織売春の首領や性風俗で働く中で出会った多くの仲間の少女らが抱えていた「不幸の種」を、心底危惧していた。

「あたし以上に波瀾万丈な子なんか一杯いる。本当に可哀相なのは、想い出がそもそもないとか、悪い想い出しかない子だよ。理由? 理由は、そうした子は寂しさに負けていつも間違ったことをするからだよ。あたしいつも、周りの子に『寂しさに負けんな』って言ってきた。だってそれが一番ヤバいことじゃない? あたしも一歩間違えたらそうだったと思うけど、マジそれが一番ヤバいから」

 里奈自身は生活の安定しない養母の元で三人のきょうだいを下に抱え、飢餓を感じるような育児放棄を経験したり、そのきょうだいと泣き別れて児童養護施設に委託されて育った経験がある。

 聞き取れるエピソードはどれもが「即座に児童福祉介入!」と言いたくなるものばかりだったが、幼い里奈にとってきょうだいは宝で、その傍には養母やその友人や遠縁のおばさんたちの手助けもあった。

 里奈が自分を「児童虐待やネグレクトの被害者」「子どもの貧困の当事者」扱いされることを拒否し、僕が彼女の養母への批判を口にすることも絶対に許さなかったのは、養母やきょうだいと過ごした貴重な想い出が、彼女にとっての支えだったからだ。

「寂しさに負けて間違ったことをする」

 里奈が主張していたのはこんなことだと思う。

 過酷な生い立ちから自力で立ち上がるべく売春やセックスワークに入った少女たちは、そうした自助努力の結果、「生活の安定と自立」を得た後に、必ず抱えてきた寂しさを「とりもどそう」とする。自らの身体を犠牲に、短期間は大きな稼ぎを得ることができる彼女らだから、そこにはホスト遊びやヒモ男のような、金と安心をトレードしようという誘いがつきまとう。

 里奈が言うヤバい(=リスク)とは、彼女のように子ども時代に得た本当の暖かさや安心の記憶がない者は、その偽りの安心に安易に走ってしまうし、どうすれば「本当に寂しくない自分になれるのか」「本当に寂しくないとはどういうことか」がわからない。

単行本
里奈の物語
鈴木大介

定価:2,090円(税込)発売日:2019年11月27日

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