むしろ自分が寂しいことにも気づけないし、自分をなぜ大事にすればいいのかすらもわからず、いわゆるセルフネグレクトの傾向も大変強い。
結果、その稼いだ金をどう使えば自分が安心する居場所を作れるのかも想像できず、正体の見えない何かを求めて、いつまでもリスキーなセックスワークの底辺界隈を彷徨い続けることになる。それこそが里奈の言う本当の不幸で本当に「心配な子たち」だった。
里奈が当初、僕の書いた本に批判のアプローチしてきたのも、やはり彼女たちが「どうして今もつらいのか」や「どうしてずっとつらいままなのか」まで僕が踏み込めず、似たような機能不全家庭に育っても、後々の不幸にグラデーションがあることを無視して一律に「貧困と不幸せのカタログ」を描いたことについて、違和感を覚えたからだろう。
現場を生き抜いてきた里奈だからこそ気づいたともいえるが、これはとてつもない慧眼だったと思う。
こうすれば安心できるという「再現のベースとなる過去の安心の記憶がない」ことや、「大事にされた記憶がないから自分を大事にする意味がわからない」ことがそれほどまでに大きなリスクだという感覚は、下手をすれば様々な困窮者支援の現場にいるプロの支援職ですら本質的には理解できていないことなのだ。
「売春相手の斡旋」という犯罪行為であったとしても、路上に飛び出て不安と混乱で身も心も破局的な状態にある仲間たちと交流し、そのケアをしてきた里奈だからこそ、直感したことかもしれない。
里奈は「実は女の子集団の中で浮いてしまう・同世代の同性と話が通じない」という強いコンプレックスに右往左往しながらも、まずは同じ環境にある少女ら同士の共助によってその「心配な子たち」に居場所を作ることにその青春を費やした。
今はどこにいるのか生きているのかもわからぬかつての仲間の生い立ちを、自身のことのように嗚咽しながら話した里奈の姿を、僕は一生忘れないだろう。
里奈自身が最終的に目指した居場所については、本小説の中で明らかにしていこう。
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