里奈とその仲間たちの熱量に焦がされて
改めて里奈から聞き取った物語は、戦後昭和から平成を貫く、「女の物語」だったと痛感する。
幼いころから里奈の面倒を見続けた遠縁のおばさんにも、時代を反映したルーツがあった。おばさんの母は、大家族の農家の末女として生まれるも、貧しさから国策産業だった紡績業に出稼ぎに出され、敗戦を経て夫と帰る家を失った、言わば国と家から捨てられた女だった。そんな母を若くして失ったおばさんは、製造業と賭博の街として復興していく地方都市で、身寄りもなく必然のように夜の女となった。
里奈の養母はその街の裏側を支えたヤクザの娘に生まれ、子どもの頃から差別のレッテルを貼られ、不良社会の中で不良の女として立ち回ることを少女時代から強いられ、やはり成人を待たずして夜の女となった。
日本のどこにでもある地方都市で、女であるだけで圧倒的に不自由な時代を、女であることを武器に、身を寄せ合うようにして彼女たちは生き抜いた。その力学を見聞きし、当たり前のようにそれを吸収して育った里奈。
改めて里奈という存在は、女性から「それ以外の武器」を奪い続けてきた理不尽な男社会に克明に刻まれた、女たちの爪痕だったのだと思う。
初めて挑戦する小説表現。皮肉なことに執筆開始直後に僕は脳梗塞で倒れて高次脳機能障害の当事者となり、ルポライターとしての道は断念せざるを得なくなったが、それから4年半である。
これまで書いてきた「売春少女」「貧困女子」のルポルタージュの延長線上には絶対留まらぬこと、かつモデルになった少女らの尊厳に責任を持つことを念頭に書き進めたが、里奈やその仲間たちの生きる熱量に焦がされ、背中を押す力強さを感じながら、書き上げることが出来た。それはノンフィクションとは違う血の滾る執筆経験だった。
常に未来の自分が後悔しないように最善の選択は何かを考え、萎縮することなく即断即決を信条とし、自らの道を切り開いて今を得た里奈を誇りに思う。
もちろん誰もが里奈のよう激しく逞しくは生きられないが、彼女たちの生き様は、生きづらい今を生きるあらゆる女性に、力を与えてくれるものと思う。
この国の、かつて少女だったすべての女性に、この物語を捧げたい。
鈴木大介
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