幼いこどもたちは、見て、聴いて、触って、舐めて……五感をつかって身体でことばを身につけていくようです。それは、決してネット空間では経験できないことです。現実の生活空間の中で、父母や先生だけでなく、おおぜいの多様な大人と生身で「つながる」ことで、こどものことばは豊かに育ちます。
この本を通して強く伝わってくるのは、藤原さんの活字・書きことばへの愛です。どんなに時代が変わろうとも、自分は、活字によって思考を深め、書きつづけていくのだという覚悟です。芥川賞作家の藤原さんが、活字や本を熱愛するのは当然です。しかし、書きことばの時代が終焉し、ネットことばにとってかわられようとしている危機感の中、藤原さんの書きことばへの熱愛ぶりは、あたかも去っていく恋人をひきとめるための叫びのようにも思えてきます。その叫びは、この本を読む多くの人の胸をうつことと思います。
冒頭で紹介したミュージシャンのS氏は、「声、ことば、音楽はみな、魂の乗りものだ」と言います。魂の乗っていないことばは、空っぽのただの箱。空箱に感動する人はいないでしょう。考えてみれば「ネットことば」の対極にあるのが「魂」ということばではないでしょうか。「ネットことばに魂を揺さぶられた」という人の話を、寡聞にして私は知りません。ネットことばはまだ、私たちの魂を乗せるに足るメディアに育っていないのでしょうか。いつか魂を乗せられるまでに成熟する日が来るのでしょうか。
いずれにせよ、この本の藤原さんの叫びに読者がうたれるのは、紙やインクの文字・本への愛を、藤原さんが「魂を揺さぶって」書いているからにちがいありません。
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ネットの洪水から離れてみよう
2019.12.04インタビュー・対談 -
五百年に一度の「ことば」の大転換期に
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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