「浩三もこの地を走ったのだろうかと想像した」、「そう思うと、少しばかり力が湧いてきた」――。
タイトルにも引かれた「遠い他国で ひょんと死ぬるや」といった詩句を遺し、フィリピン・ルソン島で若くして戦死した実在の詩人・竹内浩三。彼が戦地で綴ったはずの幻のノートを求めて、単身現地へ渡った元テレビディレクターの須藤が本作の主人公。これは、彼の波瀾万丈の道程を冒険小説として魅力的に描き出した作品だ。
家のリビングなどの現在の空間に、そのまま戦時下の日常風景が重なり合う斬新さが話題となった『ディレイ・エフェクト』を経て、今作は「私の作では一番小説っぽい小説」になったかもしれないという。
「『ディレイ・エフェクト』では戦時下の生活に焦点を絞ったのですが、いざ書いてみると、やはり戦争そのものにも触れないわけにはいかない気がしてきた。今回、切り口とした竹内の詩を知ったのは五年ほど前です。青年の率直な感性がすっと入ってきました。情報として知っている歴史を、あたかも、今に通じる感性で、わがこととして感じさせてくれるような。
一方、私たちの現実は、SNSを開くと常に現在が押し寄せ、個々が分断されたような、いわば足場のない状態に支配されているように感じます。この洪水から身を守る拠点を、作中の須藤は『歴史』に求めます」
時間軸は、まさに現在。過去の戦争の記憶はもちろん、直近の対IS(イスラミックステート)戦の傷跡が残るミンダナオ島といった舞台も含めて、テーマは重厚だが、そこにエンタメ性豊かな読み心地を与えるのが宮内流。日本軍がフィリピンに隠したとされる山下財宝(ヤマシタ・トレジャー)を追う面々も登場、スラップスティックとさえいえるドタバタ劇が冒険譚を彩る。宮内さんの脳裏には、ボスニア・ヘルツェゴビナ出身の名映画監督エミール・クストリッツァの『ジプシーのとき』があった。
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