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<ブレイディみかこインタビュー>多様性を享受できるのは一部の富裕層だけ?

<ブレイディみかこインタビュー>多様性を享受できるのは一部の富裕層だけ?

別冊文藝春秋

社会の矛盾や亀裂を鮮やかに描く『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディ みかこ)

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #歴史・時代小説

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディ みかこ/新潮社)

「私は計画的な生き方をしている人間じゃないので(笑)、連載の仕方も行き当たりばったりなんですよね。最初は自分が関心のある音楽のことを書いたりしていたんですが、息子の期末試験に『エンパシーとは何か?』という問題が出たエピソードを書いたときに、手応えを感じました。やっとこの連載のテーマが固まったなと」

 この本の中では、イギリス社会の分断、多様性を享受できているのが実は一部の富裕層だけという矛盾、緊縮財政がもたらした貧困の拡大などが描かれるが、決して堅苦しくない。それはブレイディさんが常に“地べた”からの視線で物事を捉えているからだろう。

「経済的にも学歴的にも低いところにしかいないから、目線が高くなりようがないんです(笑)。私が日本にいたときって、一億総中流で景気はどんどん良くなる時代でした。でも、うちは違った。高校生のとき、学食でまともなご飯を食べるお金もないから、ダイエットしてるって嘘をついてお昼もパン一個だったり……。だからイギリスのロックで、『俺は貧乏だ』と堂々と歌っているのをすごく格好いいと思ってました。実際にイギリスに来てみたらすごく楽だったし、自分はこれでいいんだと思えるようになりました」

 社会の矛盾や亀裂に敏感でありながら、フラットな視線で人を見つめていることが、この本が多くの支持を集めている理由かもしれない。ブレイディさん自身は、自著についてどんな風に感じているのだろう。

「本屋さんに行くと、この本はいろんなコーナーに置いてあるんですね。文芸だったり人文書だったりエッセイのときもある。きっと読んでいる人ひとりひとりが違う受け取り方をする本なのかもしれません。私自身が、どこかに所属したいと思わない人間なので(笑)、ジャンルレスに受け入れられているのは嬉しいです。そもそも私にはアナキズム的な志向があって、既成概念はどんどん壊していけばいいと思っているほうなので、ジャンルに囚われないものを書いていきたい。その思いが読者の方に届いた本なのかなと思います」


ぶれいでぃ・みかこ 保育士・ライター・コラムニスト。一九六五年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、一九九六年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で二〇一七年新潮ドキュメント賞を受賞。本書でYahoo!ニュース 本屋大賞2019年ノンフィクション本大賞、毎日出版文化賞〈特別賞〉を受賞。

別冊文藝春秋からうまれた本

電子書籍
別冊文藝春秋 電子版29号(2020年1月号)
文藝春秋・編

発売日:2019年12月20日

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