- 2020.01.30
- インタビュー・対談
<ブレイディみかこインタビュー>多様性を享受できるのは一部の富裕層だけ?
別冊文藝春秋
社会の矛盾や亀裂を鮮やかに描く『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディ みかこ)
連載中から熱狂的な感想が飛び交い、Yahoo!ニュース 本屋大賞2019年ノンフィクション本大賞、毎日出版文化賞などを受賞した『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』。「ぼく」が通い始めたのは、人種も貧富もごちゃまぜの「元・底辺中学校」だった。人種差別をする友達やジェンダーに悩むサッカー少年たちに囲まれ、「ぼく」の周りでは毎日のように事件が起きる。その日常を母であるブレイディさんの視点から描いたのが本書だ。中学生になった息子との対話は発見の連続だったという。
「中学生になると大人っぽい会話をするようになるじゃないですか。私が考えもしなかったことを息子が言うので、それが新鮮でした。大人ってどうしても考えが凝り固まるんですけど、子どもはまったく違う発想をしてくる。私の人生にとって子どもが必要な時期が来たんだなと思いました」
子どもたちの柔軟な発想は、彼らが肌で感じたことであるがゆえに強い説得力を持つ。例えば中学校には、非白人に対する差別的な発言が著しいあまり、孤立を深めているダニエルがいる。「ぼく」自身もダニエルにひどいことを言われるが、なぜか友人関係が続いているのだ。
「ダニエルが学校で孤立しているのを見て、息子が『人は人をいじめるのが好きなんじゃなくて、罰するのが好きなんだろうね』って言ったんですよ。息子はそこに人のすごくいやらしい部分を嗅ぎ取ったみたい。だからダニエルには、人を差別するところが嫌なんだけどって苦言を呈しつつ、音楽好きの友達として仲良くつき合っている。大人だったらなかなか考えられない関係でしょう。いまの時代は、何でも敵と友に陣営を分ける傾向にあると思いますが、子どもたちはフランクな付き合いの中でお互いに型にはめない関係を築いているんです」
この本を貫く考え方の一つに「エンパシー」がある。「シンパシー」が同情や共感だとすれば、「エンパシー」は「他人の感情や経験などを理解する能力」。つまり自分が共感できない嫌な人や敵対する人の立場も理解しうる、ということだ。このテーマは書き進めるうちに獲得したものだという。