一
あまねく帝都にあるものは、その日その刻にいたって激しい陸の震動に晒された。
老いも若きも、富めるものも貧するものも、蚤も土鳩も竈馬も、犬も猫も植物も、有機物も無機物も、等しなみに地の底からの響きを聞き、巨きなる破壊の贄となって、凄まじき災禍の曼荼羅を織りなす模様の一部に融けたのだ。
一九二三年九月朔日、朝から驟雨。雲足の速い空が翳り、どう、どう、どうと風の音が高鳴った次の瞬間、地面がうねった。たとえば上野の帝国図書館では、童話に詩集、小説、戯曲、古書に珍書に稀覯本、あらゆる書物が傾いだ書架からばさばさと落下した。双翼を開いた鳥たちが、しかし翔べずに、断崖の下へと墜落していくかのように。
落ちた一冊一冊を拾って片付けてはいられない。司書係たちは声を嗄らして閲覧者に避難をうながす。下足番から出世した券売場の爺(*1)も、建物全体がみしみしと撓っているのに面食らって屋外に飛びだす。あとには銘々の書、書、書が散らばるばかり――
棲み処から揺り落とされて、紙魚の群まで逃げていく。
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