下谷区竜泉寺町では、午食に炊かれた赤飯の一粒一粒が揺れた。
でこぼこの背鰭を持った恐竜が、畳の下で身じろいでいるみたいだった。
茶碗が、お櫃が、卓袱台が、底から木槌で突かれるように震えている。
「大きいぞ、地震だ! 外に出るんだ!」
膳を囲んでいた家族と共に、十四歳の少女は門前に出てくる。薄鼠色の雲が動いて、結い髪を強風にあおられた。あちこちで土埃が舞い、近所の人たちが右往左往している。屋根の瓦が辷り落ちて割れる音が響く。通りの前方にある平屋が大きく揺らいだと思った直後、隣の納屋を巻きこんで轟音とともに倒壊した。大変なことになった、と少女は思った。叔母の美登利(*2)は大丈夫だろうか――
私のお祝いなのに――叔母も午過ぎに顔を見せてくれるはずだった。黒髪を島田に結って綺麗な振袖で着飾った美登利。叔母のようになりたかったのに――
大波に揉みしだかれる小舟に乗ったような心地で、少女はどうしたらいいかわからずに家族としがみつきあう。
玄関の水仙の一輪挿しが落ちて割れる。叔母の家の方角に目を向けたところで、地滑りを起こしたように裏の長屋がまとめて崩れ落ちていく。
切支丹坂を俥で下りていた竹中時雄(*3)は、揺れが来たその瞬間、蹴込みに置いたトランクの角に脛を打ちつけた。俥屋はのめるようにして立ち止まり、最初の揺れがおさまるまで舵棒を低くして待ったが、再び走りだしたところでさらに激しい震動が襲ってきた。
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