マナ 私は女子高出身だから、藤子と菜月の感じがひしひし分かったなー。「でかいし目つき鋭いし、可愛くするのとか似合わないから!」って自分から「男役」にまわる藤子みたいな子も、そういう子に懐いてことさら女子っぽくふるまう菜月みたいな子も、両方いましたよ。大人になってみると、意外と藤子みたいなタイプがシャープな美人になってたりもするんですけどね。
ユミコ 〈女の子たちは「背中がお父さんみたい」と父親に抱きつかない歳のはずなのに私に抱きついてきたし〉って藤子が中高時代のことを思い出すとこ、あったじゃないですか。
マナ あれ、すごい分かる! って思った。藤子はちゃんと冷静に把握してるよね。
ユミコ 私はあそこでちょっとギクッとしたんですよ。悪気はないけど似たようなことしてたかも……って。
カオリ あはは。でも私は菜月って嫌いじゃないですよ。自分とは違うタイプだと思うし学生時代にいたら友達になったかわからないけど、特に小説後半の、大人になっていく菜月の、自分の女性性とか恋愛に率直な感じは、応援したくなるものがありました。
――藤子と全さんの関係についてはどうでしょう。
カオリ ずるい男ですよ、全さんは! あんなふうに距離を縮めたり離れていったりされたら二十歳の子なんて振り回されっぱなしに決まってますよ。「俺はもうがっつかないぜ」みたいな風情で家に入り込んでおいて、水道管直してくれたり、別の女との修羅場を見せてみたり。小説の中の男に怒ってもしょうがないんですけど(笑)、読みながらずっと「おまえはずるい男だなー」って。その一方で藤子には「ああー、逃げてー、逃げられないだろうけど、逃げてー」ってもう娘か妹みたいに。
マナ 「逃げられないだろうけど」ってとこがポイントですよね。私も冷静に考えれば全さんの身勝手さとか分かるんですけど、読んでいるときにはやっぱり惹かれてしまう。藤子はジジイって悪態ついてるし、ちゃんと〈染みもあるし、歯も黄ばんでいる。〉って書いてあるのに、それなのに読んでる私の頭の中の全さんは隙あらば三上博史になろうとするんですよ!
ユミコ 隙あらば(笑)
カオリ 一回もイケメンだなんて書いてないのにね。
マナ そうなんですよ、たぶん文章の色気なんでしょうね。全さんの、藤子への言葉とか、ちょっとしたしぐさとかが積み重なって、いつのまにか色気が、読むほうで勝手にかもし出しちゃう感じでした。現実の自分のまわりに全さんが現れたら絶対関わらないようにすると思うけど、藤子が引き寄せられてしまうのは、すごく分かるんです。
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