午後の始業時間を一分過ぎたところで、「女の子たち」がにぎやかに事務所に入ってきた。セーフ、などと言っている。ちっともセーフではないのに、専務はにこにことそんな彼女たちを眺めているだけだ。
事務所の隅の給湯コーナーに陣取って、今日のランチはよかったとか、また行こうだとか、ぺちゃぺちゃ喋っている。めいめい手にしているマグカップはおそろいで、毎日粉末のココアだとか抹茶ラテだとかを飲む。
「女の子たち」はいつも四人で昼休みを過ごす。楽器売り場の販売員がひとりと、音楽教室の受付がひとり。あとのふたりは企画と営業だ。藤野音楽堂の生徒を募集したり、演奏会などのイベントの企画を担当しているのだ。
「年齢の近い人同士気が合うんだよ、ただそれだけ」
いつだったか山本さんが、わたしにそう言ったことがある。いつもひとりで昼食を食べているわたしを気遣ったつもりだったのだろうが、言っている途中でわたしも彼女たちと同じ二十代だということにあらためて気づいたらしく、かえって気まずい沈黙が漂った。
「どっちにしろわたしは昼休みに外に出られないんです」
その説明は山本さんへの配慮だ。けっして虚勢ではない。
「電話番があるので」
山本さんはほっとしたように「そうだね、そうだよね」と何度も頷いていた。
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