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作家・真山仁が見た「沖縄の貧困」と「日米同盟」の真実――新連載『墜落』に寄せて

作家・真山仁が見た「沖縄の貧困」と「日米同盟」の真実――新連載『墜落』に寄せて

「オール讀物」編集部

社会派作家の背中を押した“ロッキード取材”と“F35A墜落事故”


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

底の抜けたような貧困の実態

 今回の新作では、米国製戦闘機が、沖縄に墜落します。基地問題に揺れる沖縄で、アメリカ製の戦闘機が墜ちたとき、いったい何が起こるのか。現場の検事は何を見るのか。しっかりと描いていくことで、日米間に横たわる“長く困難な問題”に迫っていきたいと考えています。

 沖縄を舞台にしようと決めてから、何度も現地の取材をおこなってきました。その過程で見えてきたもうひとつのテーマが「貧困」です。

 2015年、沖縄県の調査で「子どもの貧困率29・9%」という驚くべき数字が出たことは知っていましたが、実際に沖縄を訪ね、関係者に話を聞くにつれ、底のぬけたようなその実態に言葉を失いました。

 中学生くらいの少年少女が、男の子なら建設現場で、女の子ならキャバクラで平然と働いている。10代前半の少女が何人も子を産み、家族もそれを咎めるどころか応援さえし、にもかかわらず相手の男には生活能力がなく、身内も母子の生活を支えられず、結局シングルマザーとして働きながら育児をする女の子が多いという話も聞きました。

 例を挙げればきりがありませんが、21世紀の日本とも思えない、耳を疑うような話をたくさん聞きました。その一部は、小説的な加工を施した上で、読者のみなさんにもおつたえしようと思います。

沖縄県中部に位置するアメリカ海兵隊の基地「キャンプ・ハンセン」

 いま、東京や大阪でも、子どもの貧困は深刻な問題で、あちこちに「子ども食堂」がつくられています。でも沖縄の子の貧困は、本土の大都市とは次元の違う段階に達しているように見える。それはいったい何故なのか?

 戦後まもなくアメリカの占領下に置かれたから、児童福祉が本土より27年間遅れているのだという識者がいました。基地問題への関心ばかり高く、暮らしの問題に目が向かないのだというメディア関係者もいました。それぞれに納得できる部分もありますが、もっと根本的な“何か”が沖縄には存在するのではないか?

 新連載『墜落』では、戦闘機事故と並行して、沖縄の若者が引き起こす殺人事件も描いていきます。冨永による捜査をつうじて、いまの沖縄が抱える宿痾をきちんと書いていけたらと思っています。沖縄の問題は、必ず日本全体の問題へとつながっていくからです。

こちらのインタビューが掲載されているオール讀物 2月号

2020年2月号 / 1月22日発売 / 定価1000円(本体909円)
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