直木賞候補作『彼方の友へ』で注目の伊吹有喜さん。最新作『雲を紡ぐ』は、手織りの毛織物ホームスパンを通して、高校生・美緒の成長、そしてバラバラになった家族が再び繋がろうともがき、互いに手を伸ばそうとする姿を描きます。読む人の心を暖かく包み込む物語に、全国の書店員さんより熱い感動と共感の声が続々と届いています。
広島 蔦屋書店 江藤宏樹さん
2020年が始まったばかりだと言うのに、出会ってしまいました。
今年のベストと言えるこの作品に。
年に数回こう思う時がある。
「あー、こういう本に出会いたくて僕は本を読んでいるんだな」
仕事柄、読んでいる本の冊数はかなり多い方だと思います。
そうなると、かなりレベルの高い良い本を読んでも、「なるほど、この本はなかなか良いじゃないか。」ぐらいの冷めた感想しか持てないという悲しい体になってしまうんです。読み過ぎの弊害かも知れません。
そんな僕がめちゃくちゃ感動して、この本に出会えて本当によかった! と叫びたくなったのが今回紹介する『雲を紡ぐ』です。
物語の世界にどっぷり浸かってはまり込んで他が見えないような、本に夢中になっていた子どもの時のような、それはもう幸せとしか言いようのない時間を過ごしました。
この物語は、世代を超えて受け継がれていく布「ホームスパン」を通して、家族の形を問います。
親から子へ、祖父母から孫へ。
しかし「家族の時間」というのは思うよりも短い。
そんな切なさもこの物語で語られますが、だからこその「家族の時間」の尊さを、美しく優しい筆致で語ります。
あたたかくて、優しくて、切なくて、悲しさもある。
でも世代は受け継ぐものだから、いつでも若いものが立ち上がる。
そこにたくましさと希望が感じられる。
もう一回言っても良いですか?
「あーーー! こんな本に出会えるから、本を読むのはやめられないんだよ!」
追記
どうしても我慢できなくて、ホームスパンのマフラー買ってしまいました。
軽くて暖かくてふわふわで最高です。
一生大事に使います。
ホームスパンに出会わせてくれてありがとうございました。
(江藤さんには長く熱い感想をいただきました。掲載に合わせて泣く泣くカットしましたが、完全版は「広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.109」からご覧になれます。)