- 2020.02.20
- インタビュー・対談
【映画化決定!】戦争の英雄が連続銀行強盗犯に 全米で話題の自伝的小説が登場
黒原 敏行 (翻訳家)
『チェリー』(ニコ・ウォーカー)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
この小説は、小説を書く気など毛頭なかったウォーカーが、偶然のきっかけから書きあげた第一作だ。彼はこれからも小説を書いていきたいと言っている。今後だんだんに技法が磨かれていくだろう。そうしたときに、どんな物語が生まれてくるのか、大いに期待できる作家だと思うのである。
いくつか注釈的なことを書いておこう。
まずは第三章に登場するジョニー・カーソンのこと。彼は――あのジョニー・カーソンだとすればだが――往年の有名なテレビ番組『ザ・トゥナイト・ショー』のホストを長年務めたコメディアンだ。一九九二年に引退し、二〇〇五年に亡くなっているので、最晩年にクリーヴランドの靴店にふらりと現われたという設定になっている。
オハイオ州クリーヴランドはかつて重工業で繁栄した大都市だったが、一九七〇年代頃から衰退が顕著となり、その寂れぶりをからかうジョークが流行るようになって、カーソンもよくそれで笑いをとった。本書の靴店の場面にはタモリが名古屋のとある店に現われたような可笑しさがあるのだ。この小説ではいわゆる錆びついた地帯(ラストベルト)にあるクリーヴランドという都市の雰囲気が大きな役割を果たしているように思える。
次に主人公が中毒になるオピオイド系鎮静剤についてだが、これは本来、癌患者の痛みを和らげるための強力な鎮痛剤を、製薬会社がそのほかの体の痛み一般にも使えると言って医者に売りこんだことから、簡単に手に入るようになり、全米で中毒者が続出して死者も多数出ているという状況が背景にある。
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