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万城目学と門井慶喜の「辰野金吾建築散歩」in東京

万城目学と門井慶喜の「辰野金吾建築散歩」in東京

「オール讀物」編集部

ふたりの建築探偵が大建築家の足跡をぶらぶら歩く!

出典 : #オール讀物
ジャンル : #歴史・時代小説

(2)工科大学本館【辰野金吾/1888年/文京区本郷7-3-1】(現存せず)

万城目 さて、本郷にある東京大学工学部にやってきました。

門井 明治十七(1884)年、金吾は三十一歳で工部大学校の教授になるんですけども、翌年に工部省が廃省。工部大学校は文部省の所管になり、東京大学と合体し、本郷に移って帝国大学工科大学になるんです。その工科大学の本館の設計を、金吾がしてるんですね。のちの東京帝大工学部本館ですけれど、残念ながら大正十二(1923)年の関東大震災でやられて現存していません。震災後、金吾の弟子である佐野利器、佐野の教えを受けた内田祥三によって再建された校舎が、いま、我々の目の前にある工学部一号館というわけですね。

関東大震災後に内田祥三が建て直した、現在の東大工学部一号館

万城目 思い出した! 映画『風立ちぬ』の主人公、堀越二郎は、震災当時、東大工学部の学生なんですよ。映画の序盤、彼が地震直後の本郷に行って、赤レンガの校舎が燃えているのを見るシーンがあるんですけど、あれが辰野設計の工学部だったのでは!(万城目注・映画に登場するのは、東大の図書館でした。ちなみに、現在も東大工学部建築学科四年生の卒業設計の優秀賞として「辰野賞」が贈られているのだとか)

門井 すごい記憶力ですねえ。

万城目 (構内を歩いて)あ、キャンパスの中庭に、辰野の師匠、コンドル先生の銅像が建っていますよ。

巨大なジョサイア・コンドル像

 

門井 非常に大きい全身像ですね。像は高村光雲の弟子である新海竹太郎の彫刻なんですけど、台座も含めた全体のデザインを、やはり金吾の弟子である伊東忠太が担当している。伊東はこれまでの建築散歩でも見てきた、一橋大学の兼松講堂、築地本願寺などをデザインした、妖怪好きの建築家ですね。

万城目 台座のあちこちに妖怪らしきモチーフがあるのも納得です。

コンドル像の台座には、妖怪の気配がうかがえる

門井 ここで、ジョサイア・コンドルについて付言しておきますと、コンドル先生と金吾ってわずか二歳違いなんですね。

万城目 へぇー。

門井 二十四歳の生徒のところに二十六歳の先生が来たわけですから、教えるほうも教えられるほうもすごく若い。じつは金吾が工部大学校に入ったとき、最初はボアンヴィルという御雇外国人が教えていました。お堀端の工部大学校の校舎をつくった人なんですけれど、もともと技師として来日した人で、教育者としては大したことがなかった。コンドル先生が着任して金吾たちはすごく喜んだらしいです。

万城目 ようやくちゃんとした先生が来たと。

門井 なんせボアンヴィルの校舎は雨漏りしたらしく、それを後任のコンドル先生が自分で修理したエピソードも残っているくらいですから。コンドル先生は大変な親日家で、本国イギリスで将来を嘱望される若手建築家だったにもかかわらず、任期が終わった後も帰らず、落語はたしなむ、日本画は勉強する、日本人以上に日本人らしい暮らしをつづけます。

万城目 河鍋暁斎の弟子になるんでしたよね。

門井 日本画では暁斎から「暁英」という号をもらうほどの腕前でしたし、日本舞踊にものめり込んで、踊りのお師匠さんだったくめさんと結婚しちゃうほどでした。

【次ページ 日本銀行本店本館:辰野金吾/1896年/中央区日本橋本石町2-1-1】

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