細々と理髪店を営んできた父
これといって目ぼしい「財産」を遺さなかった父なのに、家が借地に建っていただけで巨額の「相続」に巻き込まれる兄弟──。
そんな、ドラマよりももっとドラマチックなことが起きるのが「相続」です。
田中政志(享年83・仮名、以下同)は、20代の時に福岡から大阪に出てくると、土地を借りて小さな理髪店を始めました。その理髪店の2階は住居になっていて、妻と一緒に店を切り盛りしながら、2人の子どもにも恵まれ、子どもたちを大学まで行かせました。
長男の雄一(52歳)は大学卒業後、東京の小さな広告代理店に勤め、次男の健児(50歳)は名古屋の建設会社に勤めて、2人とも親元を離れました。しかし、小さいながらも店があったために夫婦は大阪を離れるわけにはいかず、地元の馴染みの客相手に細々と理髪店を続けていました。
ただ、3年ほど前に妻が他界。自分も高齢になったことでひとり暮らしもままならなくなり、老人ホームに入るために店をたたもうと考えていました。
そして、近所に挨拶回りをした矢先、政志は心臓発作を起こして他界してしまいます。
急な父親の死に、2人の息子は大阪に駆けつけました。
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