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三國連太郎が恐れていた晩年

三國連太郎が恐れていた晩年

宇都宮 直子

『三國連太郎、彷徨う魂へ』(宇都宮 直子)


ジャンル : #ノンフィクション

『三國連太郎、彷徨う魂へ』(宇都宮 直子)

 一方、三國さんは老いを恐れていた。死ではなく、演じられなくなるのを怖がっていた。

「最後まで役者でいたいと思っています。それを奪われることが嫌です。ものすごい恐怖を覚えます。演じられない僕に、生きる価値はありませんから」

 静かな口調の中には、独特の激しさがあった。とてつもなく熱かった。

 最後に三國さんに会ったのは、二〇一二年の初秋だった。その後、私はがんに罹患し、入院、手術をした。長い治療が始まり、そこからは訪ねられなくなった。偲ぶ会等の案内も頂戴したが、当時は歩行が難しく出席できなかった。

 ただ、私に心残りはない。三國さんが入院している間に、自分なりの別れを済ませていた。掛けてもらった言葉はしっかり覚えている。私は生涯、それらを忘れないだろう。

 撮影所の食堂でもらったサインは、今も手元にある。「夢」は色褪せず、傍らにあるのだ。

七回忌の缶バッジの三國氏 撮影:見田謙太郎(ミタ写真館)

(あとがきより)

単行本
三國連太郎、彷徨う魂へ
宇都宮直子

定価:1,760円(税込)発売日:2020年04月08日

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