一方、三國さんは老いを恐れていた。死ではなく、演じられなくなるのを怖がっていた。
「最後まで役者でいたいと思っています。それを奪われることが嫌です。ものすごい恐怖を覚えます。演じられない僕に、生きる価値はありませんから」
静かな口調の中には、独特の激しさがあった。とてつもなく熱かった。
最後に三國さんに会ったのは、二〇一二年の初秋だった。その後、私はがんに罹患し、入院、手術をした。長い治療が始まり、そこからは訪ねられなくなった。偲ぶ会等の案内も頂戴したが、当時は歩行が難しく出席できなかった。
ただ、私に心残りはない。三國さんが入院している間に、自分なりの別れを済ませていた。掛けてもらった言葉はしっかり覚えている。私は生涯、それらを忘れないだろう。
撮影所の食堂でもらったサインは、今も手元にある。「夢」は色褪せず、傍らにあるのだ。
(あとがきより)
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