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「津波監視システム」を実現せよ! 変動帯に生きる日本人必読の理系小説

「津波監視システム」を実現せよ! 変動帯に生きる日本人必読の理系小説

文:巽 好幸 (神戸大学海洋底探査センター教授・センター長)

『ブルーネス』(伊与原 新)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『ブルーネス』(伊与原 新)

津波監視システム

 ここで少し、「リアルタイム津波監視システム」のことを述べておこう。南海トラフ巨大地震が切迫度を増し、あの東北地方太平洋沖超巨大地震による東日本大震災が発生したことを受けて、この地震大国ではDONET、S−netと呼ばれる海底地震津波観測網が整備されつつある。海溝型地震発生域の海底に、地震計、水圧計やその他の観測装置を多点配置し、これらを光ファイバーケーブルで連結して観測データを陸上局へ集約するものだ。これらが稼働すれば、震源から離れた陸上での観測に基づいて地震の発生場所や規模を推定して津波到来予想を行うという従来の手法に比べて、はるかに高精度に、しかも20分以上も早く津波予測を出すことができる。日本海溝周辺での運用はすでに始まっているが、南海トラフ沿いでは室戸岬沖から紀伊半島沖に設置されているのみで、まだ想定震源域全域をカバーできていない。この国家的事業の最大の難点は、ケーブルの設置などに莫大な費用と時間がかかることだ。作品でも取り上げられたように、どこで起こるか予測が難しい海底火山の噴火やそれに伴う山体崩壊、さらには津波の発生に臨機応変に対応することは困難だ。

 津波を捉えるには海面の異常な上下変動を観測するのが一般的だ。沿岸域では検潮儀が用いられることが多いが、海域では米国NOAA(海洋大気庁)が開発したDART(海底津波計)が広く利用されている。このシステムは海底に水圧計を設置して海水面変動を捉え、そのデータは逐次海上ブイ(海底の錨で係留)を経由して陸上局へ送られる。ハワイ・オアフ島の太平洋津波警報センターではDARTを運用して、環太平洋域で発生する地震津波の監視を行っている。また米国の沖合を中心に環太平洋域にも点々と配置されている。

ブルーネス
伊与原新

定価:1,056円(税込)発売日:2020年04月08日

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