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げいさい 短期集中連載 最終回

げいさい 短期集中連載 最終回

文:会田 誠

文學界5月号

出典 : #文學界

「文學界 5月号」(文藝春秋 編)

 クラブハウスとは、要はサークルの部室が集まった建物だった。そのうちの軽音の部室に入ると、鼻毛ちょうむすびのメンバーが揃って飲んでいた。

「あら二人ともきれいというか可愛いというか……もしかして、どっちかが高村くんの彼女?」

 ステージでキーボードを弾いていた女性が、いかにも姐さんといった風情で訊いてきた。高村は苦笑いしながら「いや、それは残念ながら違って……カップルはこっちっす」と言って、僕らを手で仕切ってみせた。

「じゃあお二人はカップル席ってことで」と勧められた二人用の古びたソファーは、スプリングがバカになっていて、座ると妙に深くまで沈みこんだ。

 高村が一通り紹介してくれた。バンドのリーダーでボーカルとリードギターのシゲさんは彫刻科。トレードマークなんだろう、ステージと同じキザなパナマ帽を被り続けていた。

 パーカッションのバッタさんは工芸科。こちらもステージと同じ、ラスタカラーの毛糸の帽子を被り続けていた。疎らな無精髭をボサボサに伸ばしていて、失礼ながら浮浪者を連想させた。

 キーボードのシノさんはデザイン科。上品な服を着ていて、彼女に比べるとアリアスも小娘に見えるような、落ち着いた大人の雰囲気があった。

 全員が四年生。同じバンドでありながら、性格や趣味嗜好が完全にバラバラに見えた。

「とにかくさあ……今話してたのは、明日で芸祭が終わるってことよ、あとたった一日で……」

 シゲさんはだいぶ出来上がっていた。数種類の洋酒とジュース類がローテーブルや床に散在していて、それを自分で適当に混ぜて飲む趣向だった。

「芸祭は……まさにオレたちの青春だった……クサいこと言っちゃうけどさ。それが終わっちまうってことなんだよォ!」

「まあそうよねえ、あとは卒制やるだけだもんねえ」

 シノさんが同調した。

文學界 5月号

2020年5月号 / 4月7日発売
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