クラブハウスとは、要はサークルの部室が集まった建物だった。そのうちの軽音の部室に入ると、鼻毛ちょうむすびのメンバーが揃って飲んでいた。
「あら二人ともきれいというか可愛いというか……もしかして、どっちかが高村くんの彼女?」
ステージでキーボードを弾いていた女性が、いかにも姐さんといった風情で訊いてきた。高村は苦笑いしながら「いや、それは残念ながら違って……カップルはこっちっす」と言って、僕らを手で仕切ってみせた。
「じゃあお二人はカップル席ってことで」と勧められた二人用の古びたソファーは、スプリングがバカになっていて、座ると妙に深くまで沈みこんだ。
高村が一通り紹介してくれた。バンドのリーダーでボーカルとリードギターのシゲさんは彫刻科。トレードマークなんだろう、ステージと同じキザなパナマ帽を被り続けていた。
パーカッションのバッタさんは工芸科。こちらもステージと同じ、ラスタカラーの毛糸の帽子を被り続けていた。疎らな無精髭をボサボサに伸ばしていて、失礼ながら浮浪者を連想させた。
キーボードのシノさんはデザイン科。上品な服を着ていて、彼女に比べるとアリアスも小娘に見えるような、落ち着いた大人の雰囲気があった。
全員が四年生。同じバンドでありながら、性格や趣味嗜好が完全にバラバラに見えた。
「とにかくさあ……今話してたのは、明日で芸祭が終わるってことよ、あとたった一日で……」
シゲさんはだいぶ出来上がっていた。数種類の洋酒とジュース類がローテーブルや床に散在していて、それを自分で適当に混ぜて飲む趣向だった。
「芸祭は……まさにオレたちの青春だった……クサいこと言っちゃうけどさ。それが終わっちまうってことなんだよォ!」
「まあそうよねえ、あとは卒制やるだけだもんねえ」
シノさんが同調した。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。