ぱっと見にはシゲさんの方が都会的で、バッタさんの方が野生児だったが、出身地的には逆転しているようだった。
「オレはさあ……ほら……ラジオペンチ一つあれば、世界中どこだって食っていけるから……」
そう言って、バッタさんは片耳だけにプラプラ付けている、針金細工のイヤリングを嬉しそうに示した。そういうものを手作りして、旅先の路上で売ることもあるらしい。
「オマエの指先が器用なことは認めるよ。まあ、せっかく工芸科に息づいてる伝統的な匠の技を、安く叩き売ってる気もするけどなあ」
言われて気がついたが、バッタさんはさっきからずっと所在なげに何かをいじっていた。指先をよく見ると、紙屑をこよりにして何か細かいものを作っているようだった。
「何を作ってるんですか?」と訊くと「ん? ……わかんない……テキトー……」と言ってニコニコするだけだったが。一人遊びが好きな癖のある子供だっただろう、昔の姿が偲ばれた。
僕はタイミングを見計らって、どうしても気になったことを訊いてみた。
「失礼ですが……シゲさんは彫刻家になるつもりはあるんですか?」
「ドキ。鋭い質問が来たぞ!」
シゲさんは胸を刺されて痛がる人のジェスチャーをした。
「ええと……キミは浪人生だったよね。これから美大に入ろうって若者の夢を壊すのはなんだけどさ……。正直いって、オレはもう諦めモードだね――残念ながら。いや……オレだって彫刻家になりたいって大志を抱いて、広島の田舎町から上京してきたよ。だけどさあ、今どき彫刻家なんて需要ないんだってば。団体展なんてダサいところには入りたくねえし、かといっていつか西武美術館で自分の作品が並べられる気もしねえし」
「シゲちゃんけっこう良いの作るんだけどねえ。でも毎回大っきくて、重たいんだよねえ……」
シノさんがしみじみ言った。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。