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模擬店を出ると外は暗かった。建前としては芸術祭は終了していたので、外の照明は落とされていたのだ。しかしまだ終了した雰囲気からはほど遠く、模擬店から漏れる光をバックに、人々の黒いシルエットが行き交い、ひしめき合っていた。規則を無視した時間に突入したことが、よけいに祝祭感を盛り上げているかのようだった。
石油ストーブを焚いた模擬店内はたぶん酸欠気味だったのだろう――山の冷えこんだ空気が格別に美味かった。飲んだのはひたすらビールだったが、僕はしたたかに酔っていた。夕方までヒリヒリ感じていた疎外感は、正当な理由で解消されたわけではないが、アルコールの強引な力によってうやむやになっていた。
「みんなは彫刻科の展示室で飲み直すみたいだけど……そっちはあとで合流してもいいから、ちょっとさ、一緒にクラブハウスに寄ってかない?」
と高村が言うので、それがどういうところか知りもしないで「どこでもいいよ、行こうか!」と応ずるほど、僕は上機嫌だった。
「ちょっと待ってて」と言い置いて、高村は人ごみをかき分け、いったんどこかに消えた。しばらくして佐知子とアリアスの手首を掴んで戻ってきた。そして僕の手首を取り、有無を言わさず佐知子と手を繋がせた。
佐知子とは四ヶ月ぶりの接触なので緊張した。嫌がってないかチラリと顔を覗くと、佐知子は微笑んで、軽くきゅっと手を握り返してきた。『ついでにこちらも』という感じで、高村はアリアスの手を握ろうとして、手の甲をぺシリと叩かれる、息の合った一連の小芝居もあった。
「クラブハウスはすぐそこだから」
先導する高村とアリアスの背中をぼんやり眺めながら、僕は佐知子と手を繋いだまま暗い道を歩いた。
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