別冊文藝春秋

『ものがたりの賊(やから)』真藤順丈――立ち読み

文: 真藤 順丈

電子版31号

「別冊文藝春秋 電子版31号」(文藝春秋 編)

前回までのあらすじ

竹取の翁に与えられた血の恩寵により不老の身となった一党。大杉栄の依頼を受け、坊っちゃんと呼ばれる無鉄砲な青年に、伊豆の旅一座の踊子・薫、高野聖を誑かす妖婦であった聖、さらには虎に変身する李徴、辻斬りに興じる盲目の剣士・机龍之助といった不穏な面子まで加えて纐纈城に乗り込んだはいいが、不気味な城主と滅法腕の立つ人斬り・三合目陶器師の前に撤退を余儀なくされるのであった。白皙のグスタフら陸軍の密使と城主が企てる不死鳥計画とは一体!?


 嗚呼、いけない。

 あの子たち、いけないわ。

 誰そ彼時に隠れんぼなどしていたら、神隠しに遭ってしまう――


 燃えるような深緋の色に貫かれた路傍で、薫がそう云ったのは、あの世の端境めいた古城より戻ったばかりだからか。

 すでにして宵闇の匂いは濃くなり、それでも雑木林の切れ目で遊ぶ子供たちは帰らない。鬼となった子が地蔵の横で目を隠し、他の子がわれがちに四散していく。見かねた薫が駈けていって、鬼の前にしゃがみこんだ。もうよしなさい、遅いから帰りなさいと諭しているのか、紅らんだ頬をそっと掌の窪で包みこんでいる。

 蟇の子のようにえくわっと鳴くのが聞こえた。着物の裾をほつれさせ、右下がりに兵児帯を垂らしたその子は、怪談の挿絵にでもなりそうな風情だった。隠れんぼなんて放っておけ、八幡の藪知らずじゃあるまいし(*)、平時ならそんなふうにせっかちに呼ぶところだが、あの本栖の城の、際物の神々がうごめく常世の記憶も生々しいこんな日の昏れには、坊っちゃんですらほうぼうに注連縄を巻いて、魔除けの鰯を置いてまわりたいようでもあった。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版31号(2020年5月号)文藝春秋・編

発売日:2020年04月20日


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