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対談 松浦理英子×濱野ちひろ 動物と人間は愛しあえるか?

対談 松浦理英子×濱野ちひろ 動物と人間は愛しあえるか?

文:松浦 理英子 ,文:濱野 ちひろ

文學界6月号

出典 : #文學界

「文學界 6月号」(文藝春秋 編)

 松浦 「種同一性障害」は完全に自分で考えた言葉だったので、後から論文が出ているとは驚きです。『犬身』を書く時に一番近いと感じたのは、作中にも出て来ますが、自分を動物だと信じるリカントロピーLycanthropy(作中ではリュカンスロピー)という症候群でした。ズーの人々は動物との性愛を前提としますが、ファーリーは動物との性行為は否定しているんですか。

 濱野 ファーリーの間でも意見が分かれます。私がファーリーを知ったのは、ズーの三十代以下の世代がほぼみんなファーリーだったからです。ズーの男性たちが同時にファーリーでもあることが多く、そういった人々は動物を愛し、自分も動物になる。一方で人間を性愛の対象とし、動物の衣装のままセックスをするファーリーもいます。そうしたファーリーの中にはズーをすごく嫌っている人たちもいる。「僕たちは動物虐待はしない、あんな変態と自分を一緒にしないでほしい」と。

『犬身』では人と犬のあいだに性的つながりはないけれども、両者の関係性の中で立ち現れているのは親密な愛着だと受け取りました。それがズー的だなと。一番好きなのは、陶芸家の梓が犬のナツをなでているのを見た房恵が、そのなで方の素晴らしさにうっとりと注目して、犬と人間の温かく理想的なスキンシップだと感じるところです。ズーたちは動物を触る時、とっても思いを込めます。絶対にガシガシと雑に触らない。『犬身』で繰り返し描かれる、房恵の指使いと一緒なんです。松浦さんの『最愛の子ども』でも『親指Pの修業時代』でも、なでる仕草はすごく大事ですよね。「触れる」ことの大切さは松浦さんの作品全てに通じるテーマだと感じます。触れる行為が、言葉や性差を越え、さらに種を越える時の、キーとなる動作なんです。

(三月十七日、文藝春秋にて収録)


松浦理英子(まつうら・りえこ)
1958年生まれ。78年「葬儀の日」で文學界新人賞を受賞しデビュー。94年『親指Pの修業時代』で女流文学賞、2008年『犬身』で読売文学賞、17年『最愛の子ども』で泉鏡花賞受賞。

濱野ちひろ(はまの・ちひろ)
1977年生まれ。ノンフィクションライター。2019年、『聖なるズー』で開高健ノンフィクション賞受賞。現在、京都大学大学院博士課程に在籍し、文化人類学におけるセクシュアリティ研究に取り組む。

 

この続きは、「文學界」6月号に全文掲載されています。

文學界 6月号

2020年6月号 / 5月7日発売
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