書評

汚れていた言葉を、正しい形でもう一度手に入れる、という読書体験

文: 村田 沙耶香 (作家)

『最愛の子ども』(松浦 理英子)

『最愛の子ども』(松浦 理英子)

 知った瞬間から汚れている言葉というものがある。その言葉が存在しない世界に暮らしていた子供時代、「これは○○というんだよ」と大人から手渡されたそのときから、彼等の思惑や既成概念にまみれていた言葉たちのことだ。私にとって「女」という言葉がそうだったし、「セックス」もそうだった。そして「家族」という単語も、そうした言葉の一つだった。

 大人になるということはそうした言葉を自分の力で洗ったり、解体して造り直したりしながら、自分にとっての真実を取り戻していくことだと思っていた。それはとても難しい作業で、一生かかるのかもしれないと思う。中でも一番手こずっているのが、「家族」という言葉だった。

 自分だけではなく誰かがその言葉を使っているときも、汚れている、と感じることがある。様々な幻想や欲望、既成概念を纏いすぎていて、その言葉の本質が見えないのだ。あまりに見えないと、その言葉は自分にとって透明になって人生から消えてしまう。本来は大切な言葉であるはずなのに、そのことをもどかしく、勿体なく思うことが何度もあった。

最愛の子ども松浦理英子

定価:本体730円+税発売日:2020年05月08日


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