「散らかってたら掃除してあげようと思ってたけど案外きれいじゃない。また外食ばっかしてんじゃないの。はい、これ差し入れね。レトルトカレーだけどおいしいの。たまには自炊しなさいって」
座るなり速射砲のように話し始めた。エミは黙ってりゃいい女なんだが喋りだしたら止まらないのだ。
事務所の引っ越しを考えていると話すと、エミは自分も前からそう思っていたと賛成してくれた。
「で、場所はどこにするの」
急に具体的に訊かれ、返答に詰まった。できれば慣れ親しんだ西荻でと思っていたのだが、どうしてもという感じでもない。
「そうか。だったら私とサエも新しい事務所探してるから間借りしない?」
サエはエミの親友で、昔から一緒に活動している。ふたりとも本業を別に持っていて、数年前からは女性を支援するNPO法人を立ち上げて数名で運営している。そこでは婚活パーティーなどを開催しているが、やればやるほど赤字になると聞いていた。それがこのところうまくいき始め、神楽坂で物件を探しているところらしい。僕が間借りすれば予算に少し余裕ができ、これはと思う物件に手が届きそうだというのだった。しかし、女性ばかりでやっている事務所に僕がいると邪魔なのでは。
「ヘーキだよ。トロさんみたいなオジサンでも用心棒代わりにはなるし。ケンカ弱そうだけど」
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