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『僕が20年ぶりに人ん家に泊まってわかったこと 東京民泊エッセイ』北尾トロ――立ち読み

『僕が20年ぶりに人ん家に泊まってわかったこと 東京民泊エッセイ』北尾トロ――立ち読み

北尾 トロ


ジャンル : #随筆・エッセイ

『僕が20年ぶりに人ん家に泊まってわかったこと 東京民泊エッセイ』(北尾 トロ)

 条件は光熱費込みで月に四万円。婚活事業で事務所を使うのはほとんど週末のみ、平日は誰もいないので共有スペースで打ち合わせしようが雑談しようがかまわないという。掃除は自分のスペースだけやればよく、ごみ捨てなどは彼女たちが行う。賃貸契約者は僕ではないから、保証人を立てたり敷金を払う必要もない。

 なんたる好条件。即答する。その話、乗った!

 しばらくして物件が決まったと連絡があったので、不動産屋に引っ越すと伝えた。万事順調、持つべきものは友だと上機嫌でいたのだが、エミの案内で見に行った新事務所は、広さ十坪弱のいかにも事務所っぽいスペースだった。さらには個室がない。シャワーもない。押し入れもなければベッドの置き場もない。しかも禁煙。そして何よりも寝泊まりできないというのだ。

 勘弁してくれよ、話が違うじゃないか……、と思ったが楽しそうに話すエミには悪意などなさそうだ。そういえば、と考え直してみる。エミは事務所の間取りを口にしただろうか。泊まれると言っただろうか。僕の部屋があると言っただろうか。ノーである。僕が勝手にマンションだと思い込み、自分専用の部屋を使わせてもらえると早合点していただけだ。伝えたのは月の経費を五万円少なくしたいということだけだった。案の定、エミはこの辺に安い部屋を借りて、荷物置き場兼寝室にしたらいいと言い出した。

 どうするか。いまならギリギリ引き返せる。エミによれば、ここは古い分だけ家賃が安いらしい。話を振り出しに戻し、改めてワンルームマンション探しをするか。

 でも、それもどうなんだ。単に規模を縮小するだけのことではないか。

電子書籍
僕が20年ぶりに人ん家に泊まってわかったこと
東京民泊エッセイ
北尾トロ

発売日:2020年05月29日

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