書評

世間を知らない少年の声が、大人に響く

文: あさの あつこ (作家)

『風に恋う』(額賀 澪)

『風に恋う』(額賀 澪)

 まったくの余談だが、本物の物語が与えてくれる快楽を知れば、人は深酒にも悪いクスリにも溺れたりしないと思う(あ、わたしは下戸です。もちろん悪いクスリなんて見たこともありません)。

 で、二つ返事で引き受け、編集部から送られてきた(わたしとしては、贈られてきたという感覚です)『風に恋う』を一気読みすることになる。そして、

 どうしようもない。

 という想いに浸っているのだ。

 ほんと、どうしようもない。どうしようもなく流されてしまう。茶園基を水先案内人とするこの物語の世界に心を流されてしまう。みんな、かっこいい。基が玲於奈が瑛太郎が楓が堂林や池辺や越谷が、一人一人がかっこいい。おじさん世代の森崎さんでさえ、かっこいい。どう、かっこいいのか。彼ら彼女たちは特別な才能に富んでいるわけでも、波乱万丈の冒険に挑むわけでもない。むろん、演奏や作曲の才には恵まれているけれど、天才的、百年に一人の逸材と称されるほどのものではないだろう。

 それでも、かっこいい。人としてかっこいい。自分に向き合い、自分を誤魔化さない。
 ぶつかりもするし、嫉妬もする。焦燥を抱え、疑心を抱く。それでも、自分が何をしたいのか、何をしてきたのか、挫折や後悔や未練を背負いながら問い続ける。

 かっこいいと思いませんか?

風に恋う額賀澪

定価:本体790円+税発売日:2020年06月09日


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