特集

ビニールカーテンの美しさよ

文: 朝吹 真理子

文學界7月号

「文學界 7月号」(文藝春秋 編)

 最近、飛蚊症が気になってきていて、壁をじっとみていると、康太郎さんが春の日射しだから気になるだけじゃないの、とにっこり言う。康太郎さんは緑内障で、片目の三分の一がみえないのだけれど、心配しても仕方が無いので、気にしない、とよく言っている。緑内障だとわかった日も、あーやだなあ、まあ仕事するか、と言って仕事し始めて、その図太さに感銘を受けた。

 眼科に行こう、と思うけれど、いま病院に行くのは怖い。飛蚊症の検査は、瞳孔をひらくための目薬をささないといけない。それは基本的に共有の点眼薬で、いままでまったく気にしていなかったけれど、不衛生といえば不衛生だ。常在菌を交換し合って、いままで生きていたのにウイルスを避けようとすると、世界の全部が不潔で気持ち悪くみえる。もとから不潔なのが当たり前なのに。コロナにかかるのが怖いから死にたい、という人もいるんじゃないかと思った。夕飯は、残っていた昆布締めをわさびオイルであえて、わさび茶漬け。面倒くさくてべったら漬を鋏で切った。わさびオイルは鼻水がめちゃくちゃ流れて気持ちいい。専門家の会見をなんとなくきく。夜更けに、パリの関口涼子さんとオンラインチャット。二時間ほどおしゃべり。涼子さんはコロナで原稿依頼あいつぎ忙しいらしい。涼子さんは、外出規制のただなかにいてちょっと未来にいる人みたい。お花かっておいたほうがいいよー、ベランダにみどり置いておいた方がいいよー、おいしいお菓子買っておくといいよー、と言うので、ぜんぶその通りに行動した。

 

この続きは、「文學界」7月号に全文掲載されています。

文學界 7月号

2020年7月号 / 6月5日発売
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