その真澄が唯一人を許せないことが、嘘なのである。相手を侮辱する行為だからだ。彼女と嘘を巡るエピソードは、初めは小さいことのように見えるが、物語が進むにつれて次第に大きな意味を持ち始める。他の登場人物も同様で、彼らと交わした何気ない会話の一つひとつが、主人公たちのその後を形作るピースになっていくのである。その意味では一人として無駄な登場人物はいない小説である。
最初にミステリーではないと書いたが、そうした要素も含む作品だ。前述のとおり、並列で進む二つの筋にどういう関連があるかはかなり後までわからないので、その興味が小説を読む上での推進力になっていく。これはネタばらしにならないように書くが、犯罪小説と呼べる部分もある。主人公たちの視点ではわからない何かが物語の背後で進行していく。陰謀というか、企みというか。そうした状況下において、登場人物たちが見せている顔が信じられなくなる瞬間が何度か到来するのである。誰かが嘘を吐いているのかもしれないという疑惑が物語後半に浮上してきて、読者をはらはらさせることだろう。
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