伊岡のデビュー作は第二十五回横溝正史ミステリ大賞を獲得した『いつか、虹の向こうへ』(二〇〇五年。現・角川文庫)だが、そのころから繰り返し作者が書いてきたのが、やり直しのきかない人生はないということだった。中年男性と少女の居候との奇妙な共同生活を描いたデビュー作は、まさしく再生の物語であった。改めて読んでみると、本作には『いつか、虹の向こうへ』にも共通する部分がある。主人公の一人が物語中途で味わう、血のつながらない相手との疑似家族的な連帯感は、この作者ならではのものである。
本作を読んで連想した作品がもう一つある。人間喜劇の名手であった映画監督フランク・キャプラが、一九四六年に発表した作品だ。検索すればわかることなので題名は省くが、孤独な人間が苛酷な世界を生き抜くことの難しさ、人生は一度きりという厳しさを見事に描いたあの作品が、私には本作と重なって見えるのである。実は文庫化にあたり本作には手直しが入っており、最終章は完全に書き換えられている。単行本版よりもこちらのほうが厳しさと優しさが共に引き立ち、余韻を生む終わり方になっていると私は思う。ちょっと寂しくて、少し意地悪で、苦かったり甘かったり、とにかく笑いは絶えない。人生ってそんなものでしょう。
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