第1章「二〇一四年 楓太」で登場する宮本楓太は、二十五歳の会社員だ。アパレルメーカーの営業職として働く彼はうだつが上がらず、いつも上司に叱られている。懐具合も悪く、次のカード引き落とし日が心配で仕方ない。そんな楓太が、東京都庁にほど近い新宿中央公園で仕事をサボっている場面から話は始まる。彼は、奇妙な人物を見かけるのだ。
もう一人の主人公が顔を出すのが第2章「一九八八年 春輝」である。四月二日生まれということになっている大里春輝は、本当の誕生日は四月一日だという。父親は「でかした、一番だ」と最初は喜んでいたが、その日生まれだと上の学年のびりっけつに入れられてしまうと気づき、慌てて一日遅れの出生届を出した。そんな父と母、そして姉を含めた四人で暮らしている十二歳の少年である。勉強はクラスで十位あたり、クラブのミニバスケでも正選手ではない。そんな風に目立たない、人に強く出られない気弱な少年である。
作者は、彼らの二つの人生をしばらく並行して綴っていく。危なっかしい二人なので、読者は目を離せなくなるだろう。楓太は、自分の人生がついてないのは、悪い女に騙されてケチがついたからだと思っている。他人のせいにしがちな性格なのだ。反対に春輝は、納得のいかないことがあっても自分が引けばいいのだから、と済ませてしまう。正反対の二人だが、共通点がある。言うべきときに正しいことを言う、というごく普通の行為が苦手なことである。そのために彼らの人生は思わぬ方向へと曲がっていってしまう。
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