読者が気になるのは、二つの人生がどのような形で交わるか、ということだと思う。バブル期の一九八八年と、東日本大震災後の二〇一四年では時代も相当離れている。だが、そこは読んでのお楽しみにしておきたい。主人公たちの歩みを、しばらくの間見てやってもらいたいのだ。危なっかしくて後を追わずにいられない二人だから、たくさんのしくじりをやらかすだろう。どじだな、不甲斐ないな、と笑われるかもしれない。だが、このくらいみっともなく生きているのがごく普通の、その辺にいる人間の姿なのではあるまいか。
探偵小説にはワトスン役と呼ばれる語り手を配する場合がある。ワトスン氏には失礼ながら「知能程度が多少劣った」人物が適役とされるのだが、これは読者が優越感を持って物語を眺めることができるからだろう。楓太と春輝が思わず背中をどやしつけたくなるような性格に設定されているのも作者が同種の計算を働かせたからである。『祈り』という作品を読んでいて感心させられるのは、登場人物の配置が絶妙であることだ。たとえば春輝のパート、第6章で登場する真澄が実にいい。姉が当時で言うところのスケバンだったためにおかしな目で見られることの多い少女なのだが、不思議と春輝とはうまが合う。ほんの少しだけしか出ないのに、印象に残る登場人物である。
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