- 2020.07.23
- 書評
新たなミステリーの世界を創造し続ける、定石破りの天才!! 傑作ミステリー。
文:細谷 正充 (文芸評論家)
『ドローン探偵と世界の終わりの館』(早坂 吝)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
社会の進歩が、ミステリーを進化させる。当然だろう。たとえば鉄道がなければ、鉄道を利用したアリバイ・トリックは作れない。走行中の列車の途中の車両が消失するという、不可能犯罪も生まれない。あるいは携帯電話やインターネット。それらの道具が一般的になると、ミステリーもこれに対応した内容になる。社会の進歩は、人々の生活を変え、思考や概念を変える。その変化が、ミステリーの進化を促すのだ。
だが、新たな道具を安直に使うことには反対である。かつて家電製品の新機能を利用したトリックを何度も見かけたが、多くの作品の出来は芳しいものではなかった。社会の進歩をミステリーの世界で活用するには、もっと根源的なところを、考えに考え抜かなければいけない。その結果誕生した作品は、大いなるサプライズに満ちたものになるのだ。実例がある。早坂吝の『ドローン探偵と世界の終わりの館』だ。
本書は「別冊文藝春秋」二〇一六年七月号から翌一七年三月号にかけて連載。二〇一七年七月に単行本が刊行された。作者はミステリーというジャンルに対して、きわめて自覚的である。前代未聞のタイトル当てという趣向を盛り込み、第五十回メフィスト賞を受賞したデビュー作『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』が、「読者への挑戦状」で始まることを見ても明らかだ。本書もそれと同じく、「読者への挑戦状」が冒頭に掲げられている。当時、ようやく日本でも有名になってきたドローンの説明から始まり、「本書には、ドローンという最先端の科学技術を使ったトリックが仕掛けられている。今回諸君らに取り組んでいただくのは、そのトリックが何かを当てるということである」と宣言しているのだ。しかしこれ、当てられた読者はいるのだろうか?
物語の主人公は飛鷹六騎。なぜか小学生のときに成長の止まってしまった彼は、一九歳になった今も身長一三〇センチ、体重三〇キロという子供体形である。ドローンを駆使して探偵業をしており、世間ではドローン探偵と呼ばれている。しかし本人は《黒羽を継ぐ者》と呼ばれることを望んでいる。かつてテレビで放送されていた、鳥と話せる刑事を主人公にした『黒羽刑事』が理由だ。刑事を目指したものの適わず、探偵になった飛鷹は、ドラマの主人公の後継者を自任しているのである。そんな彼は事件を追う渦中で両足を骨折し、病院に入院していた。