インタビューほか

島本理生「自分がこんな小説を書くなんて数週間前まで考えもしなかった。」

島本 理生

新連載『星のように離れて雨のように散った』に寄せて

島本理生「自分がこんな小説を書くなんて数週間前まで考えもしなかった。」

「別冊文藝春秋 電子版33号」(文藝春秋 編)

 どんな片想いも十年で一区切りつく、という感覚が、私の中にある。

 片想い、というのは、人間に対してだけではなく、一方的に情熱を注いだ物事に対してもだ。

 十年間、ひとつの対象に感情を寄せるというのは、長いのか、そこまで大したことじゃないのかは分からない。ただ、仕事も趣味も好きなこともだいたい小説に集約する私にとっては、その時間の一部を占拠するものを増やすのは、それなりに大ごとだったりする。

 そして、一度触れただけでもう会えないけれど朝昼晩まるで祈るように思い出し続けた人のことも、どれほど熱中して学んだり練習したりしたことも、だいたい十年目を迎えると、それまでの執着がなんだったのかというくらいにスッと抜け落ちる瞬間がある。年月とはそれ自体が一つの成就であり、達成なのだと思う。

 十数年前、長編の執筆を機に、宗教について学ぼうと思った。その中でも、キリスト教に関心を持ち、司祭でもある神学科の先生を紹介してもらい、個人的に勉強するようになった。

 クリスチャンでもなければ、厳密には仏教徒ですらない、信仰など考えたこともなかった自分が、いったいなぜキリスト教に関心を持ち、小説でも繰り返し書こうとするのか、じつは私にもまったく分かっていない。

 だから、どうして、と問われると、とても悩む。ひとまず、恋愛小説と親和性があると思った、という説明をすることが多いが、書こうとしているのは恋愛だけなのだろうか、とも考える。

 昨年の秋には、潜伏キリシタンの歴史について話を聞くために長崎県の外海まで旅した。正直、そのときには心の中で一区切りついた気がして、やっぱり十年目だと思い、しばらくキリスト教の関連書を手に取ることもなかった。でも、また書き始めようとしているのは、やっぱり、まだそこに「私」について分からないものが眠っているからだろう。

 もうひとつ分からないのは、宮沢賢治のことだ。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版33号(2020年9月号)文藝春秋・編

発売日:2020年08月20日


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