- 2020.09.03
- インタビュー・対談
「八咫烏シリーズ」3年ぶりの新作にこめた思い――『楽園の烏』(阿部 智里)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
待望の新章スタート!
異世界ファンタジーとして読者の熱い支持を得てきた「八咫烏シリーズ」。三年ぶりの書き下ろしとなる、本作『楽園の烏』で、遂に待望の第二部がスタートする。
「デビューの時から一年に一作というペースで長編を出してきましたし、こんなに時間が空くとは……途中、作家としてスランプなんじゃないかと悩んだ時期も正直ありました」
もともと自身の構想としてはあったものの、「形にしようとは考えていなかった」という第二部だが、第一部同様に人間の姿をした八咫烏たちが暮らす、「山内(やまうち)」が舞台である。前作『弥栄の烏』で描かれた宿敵・大猿たちとの激闘から、約二十年後の世界が描かれる。
「まず考えたのは、今までのシリーズを読んだことがない読者も読める話にしたいということ。さらに単純に前作の時系列をそのまま繋ぐお話を書いてしまったら、それは第一部の続きになってしまう。まったく違うテーマで仕切り直しをするためには、最低でも二十年という時空を飛ばすことが必要でした」
デビュー作『烏に単は似合わない』以降、「予想を裏切る」展開が衝撃をもって迎えられた著者は、今回も主人公が成長していくファンタジーの常道は用いなかった。書き出しはある「山」を相続する人間の視点で描かれ、やがて新たな世界へと読者を誘っていく。
「主要キャラクターのうち二人は、書いているうちに登場させることを決めた新キャラです。彼らは最初のプロット段階ではいなかったんですけど、それがありえないくらい重要な役割を物語で果たしてくれましたね」
さらに累計部数百五十万部突破という人気作品ゆえ、従来のキャラクターに愛着を持つファンも多い。これまでの読者に対してのカタルシスもまた、阿部さんは悩み続けたそうだ。
「書き終えてから、最初は内容がまったく練れていなかったし、テーマ性が甘かったと改めて気がつきました。小説にとって一冊ごとのテーマは本当に重要。今回も現実世界への問いかけとなるテーマを選んだつもりです。それを直接書くということはありませんが、『楽園の烏』についても、読者の方が何かを感じ取ってくれたら嬉しいですね」
キーワードになるのは「楽園」という言葉だ。それが意味するものの真実は果たして――さらに続きが気になる展開が待ち受ける。
「次作はあまりお待たせせず、来年には出せたらと思っています。他にも書きたい物語がたくさんあるし、書きたいものを書ける能力、体力をつけて、これからも頑張っていきたいです」
あべちさと 一九九一年群馬県生まれ。二〇一二年史上最年少の二十歳で松本清張賞受賞。「八咫烏シリーズ」のほか、一九年『発現』を刊行。コミカライズや中台で翻訳も進行中。
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