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伊東潤×高島礼子「歴史を動かした女たち」

伊東潤×高島礼子「歴史を動かした女たち」

北条政子、淀君、お江、篤姫…… 重要な歴史上の鍵を握った女性たちの苛烈な人生とは?

出典 : #オール讀物
ジャンル : #歴史・時代小説

北条政子は天下の悪女か

『悪左府の女』(伊東 潤)

高島 平安時代の後宮は『日本の古都』でも取り上げましたけれど、やはり清少納言と紫式部が、必ずといっていいほど比較されますよね。

伊東 清少納言は、頭は切れるけれど意地悪で、紫式部は、思いやりのあるいい人というイメージがありますよね。

高島 伊東さんはどっち派ですか?

伊東 どちらとも言い難いですが、清少納言の感受性の豊かさには感心させられます。自然風景を豊かに織り込んだ『枕草子』が、あの時代の女性によって書かれたことは日本の誇りですよ。

たかしまれいこ 1964年神奈川県生まれ。女優として『極道の妻たち』シリーズほか数多くの映画・ドラマに出演。『御宿かわせみ』ではるい役を好演。©石川啓次/文藝春秋

高島 意地悪なところもあったかもしれないけれど、一本筋をきちんと通している。平安時代の「いい女」だったような気がします。どちらかというと男っぽくて、それに比べると紫式部は男性の庇護があってこその活躍というか――それはそれで興味深いですけど(笑)。

伊東 高島さんは、歴史上の人物を演じる機会も多いと思います。大河ドラマ『天地人』(2009年)での仙桃院(せんとういん)とか、その前にもNHKの『大化改新』(2005年)で皇極(こうぎょく)天皇を演じられていましたね。

高島 ここ10年ほど、テレビドラマでも実在の女性がクローズアップされる機会が、どんどん増えているような気がします。皇極天皇は大化の改新によって弟(孝徳天皇)に譲位したんですが、その後、再び斉明天皇として重祚(ちょうそ)されたんですよ。歴史を動かした女性たちの中でもとりわけ劇的な人生を辿られていて、印象深い役でした。伊東さんも小説を書かれていて、登場人物の多くは男性だと伺いましたが、思い入れのある女性もやはりいらっしゃるでしょう。

伊東 何といっても北条政子です。ちょうど、新聞連載『修羅の都』(文藝春秋より来冬刊行予定)を書き終えたばかりで。

高島 私は横浜出身なので鎌倉には非常に親近感がありますし、女性としても北条政子には惹かれます。ただ、ずっと不思議だったのは、政子は「日本三大悪女」の一人だって言われていて、何か理由があるんでしょうか。

伊東 悪女というより強い女だと思います。悪女のイメージが植え付けられたのは、承久の乱(1221年)のためです。政子の号令ひとつで御家人たちが京都に攻め上り、朝廷を制圧してしまったんです。この事件で鎌倉幕府の基礎が固まるんですが、朝廷側からすれば、政子と鎌倉幕府は憎んでも余りある朝敵です。

高島 でも、実際に夫の源頼朝は三方を山に囲まれた鎌倉に幕府を置き、優れた政治家だったし、政子の強さと賢さがそれを支えたんでしょう。

伊東 当時は朝廷の権力が強大で、それを打破して武士のための世を作るというのは、並大抵のことではなかったんです。出会った当初、政子は頼朝と情熱的な恋に落ちるんですけど、燃え上がったものは冷めるのも早い。そこでふたりの恋愛感情は、武士の世を作り上げていくという大仕事のための同志愛のような形に変質していきます。自然に役割分担ができ上がり、二人三脚で物事に当たり、頼朝亡き後も、政子は頼朝と共に作った鎌倉幕府を守るために孤軍奮闘していきます。

高島 実のお子さんもどんどん死んでしまったんですよね。

伊東 自分より先に嫡男の頼家、次男の実朝が殺されてしまい、頼りにすべき男子がいなくなります。すでに女子2人も病死していたので、政子は家族を失います。それでも頼朝の作った武士の府を守るために、弟の北条義時とその息子の泰時を支えていく。この作品では、政子を主人公に夫婦の絆、親子の絆、兄弟の絆など、様々な絆を描こうとしました。実は、『極道の妻たち』に出演されていた高島さんの姿が、執筆中に度々浮かんできたんですよ。というのも、『地獄の道づれ』(2001年)では、組長の夫が陰謀で服役している最中、高島さんの演じる姉御は組を守るために自ら組長の代理になるじゃないですか。それが政子の姿に重なってしまい、高島さんのイメージで、北条政子を書きました。

高島 それは光栄です(笑)。

伊東 この時代を舞台にした大河ドラマには『草燃える』(1979年)がありましたが、そろそろ鎌倉幕府が再び大河に取り上げられても、いい時期ではないかと思います。その時、僕の原作で高島さんに政子を演じていただけたら、最高に嬉しいんですけど(笑)。

【次ページ 浅井三姉妹の運命の皮肉】

文春文庫
悪左府の女
伊東潤

定価:935円(税込)発売日:2020年08月05日

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