重厚な歴史小説に定評のある伊東潤さん。今回、初めて“人情話”である世話物に挑んだ。その背景を聞く。
――伊東さんにとって初めての世話物ということですが、どのようなお話なんですか。
伊東 江戸末期から明治初期にかけての岡山県の笠岡港を舞台にした連作短編集です。港町の旅宿に預けられた一人の少女・志鶴が様々な事件に遭遇し、一人前の女性に成長していく姿を描いています。旅宿ですから当然、様々な人々が現れては去っていくのですが、そうした人々との触れ合いを通して、少女から大人の女性へと成長していく過程の微妙な感情を描きました。
――なぜ、世話物に挑戦しようと思われたのでしょう。
伊東 担当編集者から世話物を書くことを勧められていたのですが、自分には向いていないと思い込んでいました。そんな時、たまたま大学時代の友人から、観光客誘致のために彼の故郷の笠岡市を舞台にした小説を書いてくれないか、という要望がありました。二つのことが同時にあったので、「これは書くべき流れにあるな」と思ったわけです。
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