浅井三姉妹の運命の皮肉
高島 女性が最近強くなってきたと言われますが、政子をみていると女性は昔から強かったということがよく分かりますよね。戦国時代も武将の誰かが時代の主役だと思われがちですが、たとえば、茶々、初、江(ごう)の三姉妹に私は注目しているんです。長女の茶々は秀吉の側室となって、淀殿として政治にも介入していったのに対して、三女の江は縁の下の力持ち的存在で、最終的には徳川幕府の二代目の将軍秀忠に嫁ぐ。同じ姉妹でも人生は対照的です。
伊東 3人の父親の浅井長政は織田信長によって滅ぼされ、母のお市の方は柴田勝家のところに再嫁したものの豊臣秀吉によって滅ぼされてしまう。淀殿はいわば親の仇の側室となり、大坂の陣で最期を遂げました。その逆に江や初は幸せな人生を送り、江はその血脈を、徳川家や諸大名家、天皇家の中に残していきます。まさに真田兄弟のような対照的な生き方です。
高島 これはあくまで私の想像なんですけど、実は淀殿は秀吉に惚れていたんじゃないかと思うんです。息子の秀頼の父親は別人物だという話もあるから難しいんですけれど、天性の人たらしで天下人まで上り詰めた人間として、秀吉はものすごく魅力的だったはず。親の仇なんだけど、ついこの男と一緒にいたいと思わせるようなところが秀吉には備わっていたんじゃないでしょうか。
伊東 男性作家が描く淀殿は、好きでもない男のものになる悲劇のヒロインという感じですが、確かに秀吉のような天下人になると、容姿を度外視したすごい魅力があったかもしれません。
高島 秀吉のことを真実愛していたとすれば、それはそれでドラマでしょう。一方のお江は淀殿に比べると、あまりにも恵まれすぎているような気がします。最初の夫(佐治一成)と離縁させられ、2番目の夫(豊臣秀勝)は病死してしまいますが、最後は秀忠のもとに嫁いで、息子の家光は3代将軍に、娘の和子は天皇家に嫁いで天皇の生母となりました。お江の周りには桐の御紋、葵の御紋、菊の御紋が常にあったという、女性としての大成功に見えますが、幸せだったかはまた別の話かとも思うんです。
伊東 男も女も何が幸せか分からないですよね。三姉妹の父の浅井長政にしても、信長の家臣として生き残るよりも、朝倉家との同盟を守り、信義に厚い武将として死んだのは本望だったかもしれません。しかも江によって徳川家などに、血筋を残すことができました。自らの運を娘たちに託したとも言えますよね。
高島 自分は戦に敗れて自害したにもかかわらず、奥さんと子供たちのことを逃がしたわけですからね。妻子もろともという武将も多い中で、長政の果断がその後の歴史を変えたとも言えます。その後、この悲劇の三姉妹が、日本の歴史のメインストリームに全て関わっているのは、本当に信じられないくらい。
伊東 次女の初は豊臣・徳川両家の融和に努め、結局、それは成りませんでした。しかし、あまり目立たなくとも、彼女は彼女で、動乱の時代を全力で駆け抜けた気がします。
高島 戦に明け暮れた戦国武将たちだって、女から生まれていますから(笑)。
伊東 やっぱり裏では、女性が歴史を動かしていたんですよ。
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