●コロナ禍って寂しいのかな?
本書を読み進めると、どのページを捲ってもうんうんと納得しながら心がほぐれていく。「寂しいのはお好き?」にはキュンとなった。
東京オリンピックが幻となったこの年、人類はウイルスに翻弄されている。しかし、例外的人物が札幌の仕事仲間にいた。
「本も資料も好きなだけ読めるんだわさ」
根っからの読書好きで自分の書斎に幾重もの書棚を造作しているイトウさんだ。病気がちだった高校生時代、療養を兼ねての引き籠り生活の経験がある。このイトウさん、釣り好きの僕に三匹ものイトウをゲットするきっかけを作ってくれた。イトウとは、漫画『釣りキチ三平』にも登場する日本最大の淡水魚。“幻の魚”とも言われる。奇跡のような虹の下の出来事だった。僕は鼻高々となり、おかげで飲み仲間は何年もの間この時の動画を見なければならなくなった。申し訳ない。
人間のイトウさんに話を戻すと、在宅隠遁、いや在宅勤務は正に水を得たイトウ。家での作業が可能な北海道の旅本を編集しており、“ステイホーム”の自粛生活は願ってもない状況だった。かと言って人嫌いな訳ではない。尊敬する作家の著書は徹底して読み尽くし、ハードルの高い執筆依頼も取り付ける。
それでも愛娘が嫁いだことは大そうショックらしく、婿への愚痴を漏らしたことがある。オーディオとジャズマニアのイトウさん、婿とは音楽趣味がまるで合わない。
「椅子に縛り付けて、ヘッドホンで大音量を聞かしてやりたいよ」
ジャズを理解できない婿の音楽的センスが許せないそうだ。映画「時計じかけのオレンジ」から暴力犯罪人の矯正シーンを引き合いに出して力説する。愛娘を手放しても、生涯切れない孤独とは嬉々として向き合っている。無駄な時間を使わないので仕事の効率が良く、会社からの評価も高い。定年後も巣ごもりのまま飄々と生き抜くプランを持っているから逞しい。
まさに東海林さだお翁の予言なさった“大孤独時代”を謳歌している。
-
食パンからダリ、谷崎からとうもろこし 東海林さんの柔らか思考に脱帽!
-
ショージ君はガンで入院していても「類いのない人」であった!
2019.11.01書評 -
「食べたい」気持が湧いてくる薬の1冊。“焦熱地獄グラタン”に挑戦してみたら…
2019.04.17書評 -
丸かじりシリーズのアンコだけ食い、いいのか
2018.01.31書評 -
公私混同はヨロシクないが……
2017.08.16書評
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。