●山羊のオッパイのおかげで……
本書のタイトルは『オッパイ入門』。四国の山村で育った僕のたんぱく源は山羊の乳だった。食糧事情の悪い戦後、田舎ではミルクのために山羊や牛を飼う農家が多かった。僕も山羊の乳搾りを教わった覚えがある。母親の乳は飲んだはずだが、遠い記憶の彼方だ。どちらかと言えばポヨンと垂れ下がった山羊のオッパイの方がリアルに浮かぶ。
女体のオッパイを初めて意識したのは西洋絵画の裸婦像かも知れん。自作の句にオッパイを詠んだものがある。
銀杏や裸婦のつまめり指のさき
酒のツマミによく銀杏を頼む。ふっくらと焼き上がった銀杏の食感。この弾力のある歯ごたえが母親の乳首と似ているような気がした。
そういえば門前仲町の立ち飲み屋には巨乳のMちゃんが客として出入りしていた。小柄だったので、大柄のおやじたちの陰に姿が隠れてしまう。けれど重たそうな巨乳だけはカウンターの上に迫り出していた。
「載せておかないと疲れちゃうのよ」
Mちゃんが上目遣いに言う。彼女の存在感のある胸にはいつも恐縮していた。女性のオッパイといえばMちゃんが脳裏に蘇ってくる。いずれにしても“三密”の当たり前だった立ち飲み屋が懐かしい。
と、ここまで昔の事やらを振り返りつつパソコンに向かっていて、ふと気が付いた。ひょっとすると僕の思考が、僭越ながらさだお翁に引き寄せられてきたのではないだろうか。長く生きて世間の見識を広め、それを風流として楽しむ。いわば“世間知”をもって“遊興延年の術”とする仙人みたいな人物だ。
「“世間師”って言葉、知ってますか」
僕のスケジュールを調整するもう一人の女性スタッフに聞かれた。世間ずれした詐欺師のことだと答えたら、あながち間違いではなかった。良くいえば、好奇心旺盛な冒険家でもあるらしい。旅から旅の生活をおくる“世間師”であっても全て悪人という訳じゃあないそうだ。
「そろそろ“世間師”に見習ってもいいのでは……」
同じ失敗を繰り返して人生を堂々巡りしている僕への助言だろうか。
最後に、本書の中でテレビ番組「吉田類の酒場放浪記」に触れて頂いた。恐れ多くも嬉しいことだ。これからも諸国飲み歩きの励みとさせていただきます。
今の齢を迎えた僕にとって、さだお翁をはじめ、神仙のような先人たちと出会うことはかけがえのない悦び。偉大なる大先輩を前にまだまだ“小僧っ子”でいたいものです。
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