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女渡世人・羽衣お炎が、新式六連発リボルバーを躊躇なくぶっ放す

女渡世人・羽衣お炎が、新式六連発リボルバーを躊躇なくぶっ放す

文:細谷 正充 (文芸評論家)

『コルトM1847羽衣』(月村 了衛)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #小説

『コルトM1847羽衣』(月村 了衛)

 ヒロインが女渡世人だったので、まず思い出したのは藤純子が主演した「緋牡丹博徒」シリーズなどの女侠映画だった。しかし、おみんが登場して、女ふたりの軽妙なやり取りを見ていると、むしろ連続テレビ時代劇『旅がらすくれないお仙』や、その姉妹篇の『緋剣流れ星お蘭』の方かと考え直す。まあ、作者が何を意識したのか、別に何もないのか、本当のところは分からない。ただし時代小説や時代劇の女性アクション物の系譜に連なっているが、独創的な読みどころを持つ作品であることは間違いないのだ。それが本書なのである。

 時代小説や時代劇に出てくる拳銃といえば、せいぜい短筒(たんづつ)である。莫連女が短筒を振り回すこともあるが、どちらかといえば威嚇の道具だ。なぜなら火縄銃の拳銃版である短筒は取り扱いが面倒なうえ、まず単発式である。これでは敵をバッタバッタとなぎ倒すことはできない。そこに作者は、アメリカの新式六連発リボルバーを持ち込んだ。当時の日本では、明らかなオーバー・テクノロジーだ。そのM1847をお炎は、躊躇なくぶっ放す。容赦のないヒロインのガン・アクションが痛快だ。

 とはいえまだ銃の性能に問題がある。弾丸の装填に手間がかかるのだ。六発撃ってしまえば、無防備にならざるを得ない。これをカバーするのが、おみんや与四松たちだ。本書でお炎たちは、大勢に襲われるシーンが多い。おそらくリボルバーの優位性を下げるためだろう。だからお炎たちのアクション・シーンに、ハラハラドキドキしてしまうのだ。

 その一方で、敵味方が入り乱れるストーリーも見逃せない。冒頭から相次ぐアクション。オドロ様信者の巣窟となっている坑内に突入して繰り広げる死闘。そして、あるお宝の争奪戦へと発展する。お炎一行・オドロ党・幕府役人・元薩摩藩士。各勢力が入り乱れ、三つ巴、四つ巴のバトルまたバトル。蟬麻呂の意外な正体と、与四松との因縁。オドロ様の真実と、お炎の恋心の行方……。伝奇要素も盛りだくさんで、ラストまで突っ走る。まさに一気読みの面白さなのだ。時代小説ファン、月村了衛ファンのみならず、エンターテインメント・ノベルを愛するすべての読者にお薦めしたい快作である。

 ところで本書と『残月』には、作者の出世作となった「機龍警察」シリーズとの共通点がある。先にもちょっと触れた、オーバー・テクノロジーだ。「機龍警察」シリーズといえば、現代の日本を舞台に、警察小説とロボットSFを合体させた、きわめてユニークな作品である。現在の視点から見れば、主人公たちが直接動かす“機龍”を含むロボット―近接戦闘兵器・機甲兵装は、明らかなオーバー・テクノロジーといっていい。それに対して、コルト社の拳銃は、実在したものだ。しかし当時の日本人にとって、六連発リボルバーは、未来の兵器といっていい。だからこそ、機甲兵装とコルト社の拳銃は、同等の意味を持っているのである。

文春文庫
コルトM1847羽衣
月村了衛

定価:990円(税込)発売日:2020年11月10日

文春文庫
コルトM1851残月
月村了衛

定価:803円(税込)発売日:2016年04月08日

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