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「人生最後の一冊」に思いをはせる物語

「人生最後の一冊」に思いをはせる物語

文春文庫編集部

『三途の川のおらんだ書房』野村美月さんインタビュー


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『三途の川のおらんだ書房』(野村 美月)

「人生最後の、天にも昇る一冊をお選びしましょう」。
そんな願いを叶えてくれる本屋さんがあったら――。
「文学少女」や「むすぶと本。」など本をモチーフとした小説を多数発表している野村美月さんの新刊は、死者のための書店を舞台にしたファンタジー。
怠け者だけど、とびきり優しい店主の物語はどのように生まれたのか。刊行に際して行った著者インタビューをお送りします。

現実と非現実が入り交じった世界観が好き

――なぜ死者のための書店を舞台として小説を書かれたのでしょうか。

野村 もともと、現実と非現実が入り交じっているような、ふわっとした世界観が好きなんです。もし三途の川べりに本屋さんがあったらどんなお店だろうと、あれこれ考えて、そこから『三途の川のおらんだ書房』の物語が生まれました。

――「人生最後の一冊」というのは、本好きだったら絶対に興味を掻き立てられるテーマだと思います。

野村 ですよね! 私も自分ならどの本を選ぶだろうと、真剣に考えてしまいました。でも実は、そのテーマよりも先に浮かんだのは、店主のキャラクターのほうでした。お店のカウンターでダラダラしている派手な着物姿の男性のところに、経帷子(きょうかたびら)のお客さんがやってきたら……と想像していたら、いい感じにその男性がお客さんと話し始めて、うやうやしく一礼して「人生最後の一冊を選びましょう」と言ったんです。

――野村さんの中でキャラクターたちが動き出したんですね。その店主は野村さんから見て、どのような人ですか?

野村 作者目線でお答えすると、たくさん喋ってくれるキャラクターはすごく書きやすいので、大好きです! とても助かっています! 派手な着物を着ているといった見た目の特徴も、最初に彼が頭の中で喋り始めたときに、一緒に具体的なイメージが浮かんできました。

――おらんだ書房にはアルバイトのいばらくんもいます。

野村 いばらくんは店主と会話させやすいキャラクターというところから生まれました。私はメインのキャラを作ったら、それと正反対のキャラを配置することが多いんです。店主は怠け者でいい加減ですが、いばらくんは働き者できちっとしています。このように正反対にすると会話をさせやすいんです。ギャルソンの服装も、店主の着物との対比で決めました。

本を手に取るまでのエピソードに焦点

――三途の川の広がる街もとても楽しげに描かれているのが印象的でした。モデルとなった場所はありますか。

野村 具体的な場所のイメージはなくて、なんとなく田舎の温泉街だったり、江戸時代っぽい部分もあれば大正時代風もあったり、そういったものをごちゃ混ぜにして私の想像上の楽しい街を書いてみました。

――これまでも「文学少女」や「むすぶと本。」など本をテーマとした作品を書かれていますが、それらと『三途の川のおらんだ書房』に違う点はあったりしますか。

野村 「文学少女」は基本的には書き手と読み手の物語、「むすぶと本。」は読み手と本の物語です。『おらんだ書房』は読み手というよりも、一個人とそれにほんのいっときだけ寄り添う本の物語になっています。本との関係というよりも、その本を手に取るまでの個人のエピソードに焦点を当てている感じです。

――『三途の川のおらんだ書房』は全6話からなる連作短編集です。第1話は事故で死んでしまった本好きの男性が、おらんだ書房を訪れるところから始まります。読者も共感しやすい導入だと思いますが、最初の客は読書家にするというのは決めていたのでしょうか。

野村 はい。もし死んでしまって最後に1冊しか読めないとなったら、本がめちゃくちゃ大好きな人は、一体何を読むのかなと思って、真っ先に浮かんだのが彼でした。実はモデルがいて、そのかたのお部屋の状態が、まさに第1話のお客さんのようなことになっているんですよ。ベッドは捨ててしまって、代わりに本を重ねて寝ていると聞いたときには、そんなとんでもない本好きの人が本当にいるんだと、びっくりしました。

――それは衝撃ですね……。第2話では打って変わって、「でんぐり返る本」を探しているという老婦人の依頼が、とびきり甘いラブストーリーへと発展していきます。

野村 このお話はネタ本がすごく好きで、その本を使いたくて書いてみました。ネタ本のヒロインがもう、可愛いんですよ!

文春文庫
三途の川のおらんだ書房
迷える亡者と極楽への本棚
野村美月

定価:803円(税込)発売日:2020年12月08日

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